1.非常に配役がよろしい。加藤剛は、実直で剛健で己に厳しく、それゆえに他人を知らずに傷つけるような、孤高の役を演じたとき、本当に上手い。50歳になるまで、大百姓としてきちんと仕事をして、それから自分の好きなことに没頭する。こんな生き方をした人がいたのかと素直に驚いたし、加藤剛のキャラクターも年齢もきちんとリンクしている映画だ。間宮林蔵のからめかたが、なかなか良いし、演じている増田望も上手い。アイヌの人々に関してはあえて深入りして描写することを避けたのか、ちょっと弱かった。島津公の丹波哲朗がハマっているのだが、やりすぎ。賀古千賀子がちょっと浮いていた。印象に強かったのは、町人学者の山片蟠桃が「私は町人だが、あなたは?」と聞いたシーン。あなたの本来の姿・バックボーンはなんなのか? 伊能忠敬は「百姓の自分」を思い出したが、なかなか素晴らしい問いかけだと思う。全体としては、質実剛健な映画で、とくに盛り上がりや大きな感動があるわけでもないのだが、生きる姿勢に関して丁寧なメッセージの込められた映画だった。