4.これは不思議な映画で、おそらく東と西とに同じ娘が生きてるという漠としたイメージが先行したんでしょうね。動乱のさなかポーランドという国のことをじっと考え詰めて息苦しくなってきたときに、その外の世界に住むもう一人の娘について考えが飛んだというか。ハリウッドだったら、あるいはヨーロッパの西の国だったら、もちっとメルヘンにしたりドラマチックにしたりするだろうが、ポーランドは渋い。渋くならざるを得ないところが、東欧の土壌なんだろう。西に分身がいるということ、東に分身がいたということ、それぞれ忘れないようにしよう、ってことか。政治的な動乱は極力点景として描かれる。撤去される銅像も、インターナショナルのメロディも、脚光を浴びない扱い。デモの学生とは反対方向に歩き、落ちて散らばるのは政治ビラではなく楽譜だ。『殺人に関する…』のときの、黄濁した光が満ちる。考え詰めた果てのとても切実なことが語られているようだけども、それが明晰に伝わってこないもどかしさが、この監督作品にはいつも感じられる。