10.《ネタバレ》 これは久々に「怖い」と思わされた映画です。
正直に言うと、終盤までは退屈で仕方ない。
夜の遊園地にて、女性が子供時代のトラウマを語るシーンの演出なんかはベタベタで、話の途中で相手の男が目を瞑っているのに気が付き「何だ、寝ちゃったのか」と呟く件なんて、もう観ているコッチが恥ずかしくなるくらい。
だた、このシーンにて「途中で寝ちゃった」はずの男性が、そっと目を開き、寝た振りをしていた事が明かされるのですよね。
(出会って間もないのに、いきなりヘビーな話されて困ったから、聞かなかった事にしたのかな……)と、軽く受け流していたのですが、まさかそれがラストの伏線とは、恐れ入りました。
連続通り魔の犯人が、ルームシェアしている若者達四人の中にいる事は、大体予見出来る範囲内だと思います。
その正体が、藤原竜也演じる直輝であったという点についても「一人だけ夜中に出歩いていて、アリバイが無い」という事を鑑みれば、意外とは言えない。
衝撃的な犯行シーンに差し掛かっても、観客であるこちらとしては(まぁ、そうだろうなぁ)という感じで、然程驚きは無かったのですが、そんな風に心が緩んだ隙を突くようにして、映画は「本当に怖い」ラストシーンに流れ込むのです。
偶々犯行を目撃してしまった、新たな入居者のサトル。
諦めきった表情で「警察に突き出される事」「自分を慕っていた同居人の皆にも犯行がバレてしまう事」を覚悟する直輝に対し、サトルは事も無げに、こう言い放ってみせる。
「もう、みんな知ってんじゃないの?」
この一言にはもう、完全に直輝と心境がシンクロしてしまって、心底から吃驚。
そして、何故知っているのに止めなかったのか、その理由が既に作中で明かされていた事に気付いて、二度驚く訳です。
恐らく彼らは「重い話を聞く事」が「面倒臭い」のだと思います。
だからトラウマを抱えた女性を相手にしても、寝た振りをしてやり過ごす。
同情したり、慰めたり、励ましたり、怒ったり、一緒に泣いてみせたりするのは、疲れるし、やりたくない。
同居人が殺人犯じゃないかと勘付いても、それが確定してしまったら面倒なので、踏み込まない。
観客が知りたいと願う「犯行の動機」に関しても、一切詮索したりはしない。
自分にとって「都合の良い人物」「皆の頼れる最年長者」でありさえすればいいという、怠惰な利己主義。
作中で長い時間を掛けて、彼らは「問題を抱えているけど、基本的には良い奴ら」として描かれていただけに、その衝撃は凄かったですね。
そんな人間関係の中で、直輝だけが一方的に「重い話を打ち明けられる事」が多い。
しかし、直輝にとっての悩みである「自分が殺人犯である事」は、誰にも打ち明けられない。
信頼出来る人格者として扱われている為、仲間から打ち明けられた秘密を、他の仲間に話す事も無い。
あまりにも便利な相談役。
だからこそ、他の住人にとっては直輝が必要だったのでしょう。
ラストシーンにて、泣き崩れる直輝に「皆で旅行に出掛けよう」と誘う一同の、冷たい表情。
そこからは、親しみに見せかけた究極の無関心というか「大切なのはアンタがどういう人間なのかじゃなくて、アンタが私の仲間として役に立ってくれるかどうかだ」という要求が窺い知れて、本当に背筋が寒くなりました。
日常にて何気なく使われる「空気を読めよ」という言葉なんかも、本質的には彼らの要求と同じではないかと思えたりして、何ともやりきれない。
全編に亘って楽しめる内容とは言い難いのですが、とにかくラストの衝撃に関しては、折り紙付き。
こういった事が起こり得るからこそ、途中まで退屈な映画でも、最後まで諦めずに観なきゃいけないんだな……と、再確認させてくれました。