1.《ネタバレ》 ◆運命の出会い。婦人は高峰を一目見て恋に落ちた。ただ見つめあうだけの恋だったが、親のいいなりで結婚し、恋を知らずに過ごしてきた婦人にとって電流に打たれたようなショックだったに違いない。上流階級のお嬢様育ちで、清らかで純粋な心しか持ち合わせていない婦人にとって、突然の「禁断の恋」には耐性がなく、真っ白いキャンバスに塗られた赤絵具のように鮮烈で、歳月を経ても色褪せるものではなかった。
◆高峰にとって婦人は美の極みだった。「ああ、真の美の人を動かすことあのとおりさ」この世ならぬ絶世の美女を知ってしまった運命により、他のどの婦女子も高峰の心を惹くことはできなかった。独身を通したのだ。
◆九年の歳月を経て二人は再会する。婦人は病に倒れ、高峰はその執刀医として。婦人にとっては僥倖なことだったが、麻酔により胸中を告白してしまうという強迫観念にとりつかれる。「いいえ、このくらい思っていれば、きっと謂いますに違いありません」婦人にとって秘密が他人に知れることは、夫や子供、家族、友人、世間を裏切ることであり、死に価する罪だった。それで無麻酔での手術を申し出る。このとき婦人は死期を悟っていたと思う。自分は罪を犯した身であり、その罰として病気となった。秘恋の相手と再会できた今は死んでも本望である。又、手術が成功して快癒しても、恋患いで死んでしまうという思いがあった。「それじゃ全快(なお)っても死んでしまいます」
◆高峰には婦人の秘密がすぐに解った。相思相愛だったのだ。故に婦人の望み通りに、無麻酔での手術を決行する。婦人にとって高峰の手で死ねるのは本懐だ。だから痛みに我慢できなくなったとき自らの胸を高峰の持つメスで突いた。この痛みは心の痛みでもあったに違いない。しかし唯一心残りがあった。「でも、あなたは、あなたは、私を知りますまい!」高峰が即答する。「忘れません」この言葉は永遠の愛の誓いだ。この世では一緒になれなくても、あの世、あるいは来世で一緒になろうということ。その日のうちに高峰は命を絶つ。純真な愛の心を持つ二人の一種の心中である。
◆耽美的な映像と音楽。頑張っていたが、大成功とはいいがたい。原作をそのままなぞった脚本には疑問がある。絶世の美女を用意しないと成立しない映画。