1.《ネタバレ》 1958年の「炎上」に比べると、かなり原作に忠実に映像化されている一品。
特色としては、エロティックな表現が強まっている事が挙げられそうで「米兵に指示されて女の腹を踏みつける場面」「母が不義を働く姿を寝床から見つめる場面」などは、思わず目を背けたくなるような鮮烈さがありましたね。
これらが単なる「観客へのサービス」で終わらずに「主人公が金閣寺に火を点けた理由」とも密接に絡んでいる作りには感心させられましたが、それによって主人公が単なるマザコン青年にしか思えない形となっていたりもして、少々残念。
母親と、主人公の初恋の相手である「有為子」の比重が増している為、金閣寺の存在感というか、重要性が薄れてしまっている点も気になりましたね。
何せクライマックスの放火シーンにて、火を放った直後には母の乳房に吸い付く幻影を見ているし、最後の一言は「有為子」であるのだから、結局主人公が執着していたのは「女性」であって、金閣寺の「美」に対してではなかったのだな……と、寂しく思えてしまいました。
主人公の友人である鶴川についても、比較的出番を確保されてはいたのですが、原作にあったような「主人公と明るい昼の世界とをつなぐ一縷の糸」というほどの重要性は感じられず、単なる男友達という枠の中に収まっていて、どうにも物足りない。
原作を未読の方からすると、鶴川の葬式で泣いていた主人公の姿が「どうして、そこまで悲しむの?」と、不可解に思えたのではないでしょうか。
内面描写が主となる小説ではなく、映画で表現する以上は、破天荒な柏木の方にスポットを当てるのが正解なのかも知れませんが「炎上」に続けて扱いが悪かった鶴川というキャラクターが、何だか哀れに感じられましたね。
主人公と正反対に思えて、その実は非常に近しい性質を備え持っていた彼が「自殺」という道を選んだからこそ、原作におけるラストシーンの「死を拒み、生を選ぶ」行為の美しさが際立つ訳なのだから、そこは外して欲しくなかったところです。
そんな不満点もありましたが「この世界の全てを拒んでいる有為子の美しさ」「神聖な儀式のように、茶碗に母乳を注ぎ入れる女性」などの場面が、丁寧に映像化されている辺りは、素直に嬉しかったです。
舞い散る火花を見つめながら、息を切らして煙草を喫む主人公の姿なんかも、金閣寺を征服してみせたという達成感、ギラギラした野性的な魅力のようなものが感じられて、良かったですね。
原作とも「炎上」とも異なる魅力を備えた、しっかりと完成された一品であったと思います。