6.《ネタバレ》 画家と声楽家が恋人同士であり、旅館に同泊したなどと、でっちあげ記事を雑誌に書かれる。雑誌社にしてみれば、真実かどうかは重要ではなく、売れればよいわけで、二人の談笑写真があるのが強みだった。画家は正義感が強く、泣き寝入りはせず、雑誌社を告訴する。声楽家は最初は消極的だったが、心なきファンレターがを受け取った事と、画家の熱意にほだされ、告訴に同意。ここから法廷対決のはずが…、話は卑劣弁護士の改心譚に転調する。弁護士は雑誌社に金で抱きこまれ、会社側に有利になるように仕組む。弁護士はうだつが上がらず、寝たきりの娘を抱えて経済的に困窮している。画家と声楽家は弁護士の娘に会い、その清らかな心に触れ、その父親の誠心を信じた。裁判は雑誌社優位に進んだが、最終的に弁護士が自らの買収を暴露する事により二人の勝利となる。二人にとって裁判の勝利より、弁護士が改心し、真人間になった事の方が嬉しかった。
◆脚本に一貫性がない。無責任な雑誌記事により「醜聞」に曝された被害者の憤慨と苦悶、どうやって「醜聞」に対抗するかという問題が、後半になると「醜聞」はどうでもよくなっている。又二人の「醜聞」なのに声楽家の扱いが等閑なのが奇妙だ。後半になると会話はほどんどなく、裁判でも一切発言しない。刺身のツマ扱いだ。二人が協力しあい、その過程で恋愛も芽生えるというのが自然の流れだろう。協力の結果、裁判に勝ち、弁護士も改心し、恋愛も進展することでカタリシスが得られた筈だ。
◆弁護士が改心した理由だが、これは本人が何かを経験したとか、誰かに影響を受けたという事ではなく、ただ最愛の娘を失くした事が契機となっている。問題の解決策としては、実に安直である。
◆この映画は当然描くべきことを描いていない。第一に娘の死ぬ場面だ。最大の泣かせ場であり、弁護士がどれほどショックを受けたを示す絶好の機会なのに。「いきなり死にました」では観客もどん引きである。その伏線があってしかるべきである。
次に告訴を逡巡していた声楽家が告訴を決意する場面。心の推移を見せてこそ感情移入できるというもの。弁護士が酒場で皆と「蛍の光」を合唱する場面がある。正しいことをしようと心に念じているが、それがなかなか実行できないもどかしい心情を巧に演出していて見事である。このような演出を声楽家にもすべきだった。バランスが悪いのである。法廷闘争も緩くて魅力薄。