3.《ネタバレ》 非情な殺人鬼の手によっていきなり生を断ち切られてしまった者の魂は、こんなふうに彷徨うのか。
何もなければ平和に続いていくはずだった家族との日常を、どこにも存在しない真っ白な霧の中で、永遠に繰り返すのか。
なんと哀れで、なんて悲しいんだろう。
死後もこんなふうに彷徨わなくてはならなくなるなんて、観賞中に、他人の命を奪う事の罪深さについて、思いをはせてしまった。
そして、ようやく自分たちがすでに死んでいると家族全員が気づくことができ、あちら側(死後の世界)へ行けるようになったにも関わらず、ヒロインはたった一人、家に残る決断をする。
現実に今、殺されかけている少女を救うため。かつての自分のようにその少女が殺されようとしているのを、ヒロインは見過ごせなかったのだ。
彼女の勇気と優しさと、人間を信じる心。彼女の強くて優しい人間性が、美しくもせつない。
幽霊物としては一般的な設定かもしれないが、とても自然に謎に引き込まれるような展開を重ねてある。
主役が自分は死んでいる事に気づくまでを淡々と描き、そこへ現実の人間と霊との錯綜した交信をからめ、霊になっても人を殺し続ける恐ろしい殺人鬼との闘いを描いた。
派手なドラマがないので一般受けは難しいかもしれませんが、脚本もかなり凝った良作です。