1.《ネタバレ》 これはなかなか評価の難しい映画です。
声高に主義主張を叫ぶ映画ではないため表面上は中立を装っているものの、主人公が愛すべき家庭人として描かれ、「俺も真面目に働かなきゃ」と改心したまさにその日に射殺されたというドラマチックな内容としている点で、やはり表現にはバイアスがかかっていると思います。交通事故に遭った犬を抱きしめる場面とか、ハッパを海に捨てる場面とか、故人が一人で行ったはずの善行を一体誰が見てたんだよとツッコミを入れたくなりました。
そもそも主人公は前科持ちで出所後にも売人を続けており、社会との信頼関係を自ら破壊してきた人物なのです。そんな人物が公共交通機関で敵対グループと喧嘩をしたとなれば、警察官達が「相手は危険人物である」との予断を持って事に当たり、「新年で混み合う公共交通機関で一般市民に被害が出ないよう対処せねばならない。何かあれば即撃て」との姿勢でいたことにも、一定の合理性はあります。また、舞台となったフルートベール駅周辺は治安が悪く、その地では警察官達は緊張感を持って職務に当たっているという点も考慮に含めねばなりません。そうした警察官側の論理を扱っていない点でも、やはりアンフェアな内容だったと言わざるをえません。
ただし、さすがはライアン・クーグラー監督作品とだけあって映画としては抜群に面白く、その構成力には舌を巻きます。冒頭に射殺場面を持ってくることで「この人物は殺されます」という結末を観客に対して突き付け、当日の彼の些細な行動にも高いドラマ性と緊張感を与えています。主人公が非常に魅力的であることもドラマへの没入感を高めており、上記の通りの社会啓蒙的な側面を度外視すれば、これがとても良い映画となっているのです。