1.《ネタバレ》 実在の事件を対象とするにふさわしく、導入部から中盤までは、カメラは地道に事実を追い続ける。決して役者に感情をあふれさせることなく、治療のディテールや実際の記事なども織り交ぜながら、救済を求める主人公の姿を浮かび上がらせている。だからこそにじみ出る緊迫感。●しかし、中盤から話は大幅に愛人との関係にシフトしてしまい、結局、放火事件も受傷も添え物扱いになってしまっている。あの前半から、何でこの後半になるかなあ・・・。芦原温泉のシークエンスなんて、残らずいらないんじゃない?それよりも、主人公の被告人に向けた心理の変化であるとか、法廷や裁判の進行であるとかを、なぜもっと描いてくれないのか?●ただし、全体の中で、ここだけは語り継がれないといけない衝撃的なシーンがあって、1つは、自宅と拘置所前で放送局のインタビューに答えるところ。この主人公のコメントは実に奥が深いし、現在にも通じる普遍性を有している(もっとも、かりに今、事件関係者がこのようなコメントを出しても、マスコミで報道されることはないだろう。こういった内容に基づいて番組を構成する力が、マスコミには存在しないからだ)。もう1つは、中盤の手紙の朗読にあわせて実名入り(一部仮名)で再現される、事件発生直前のバス内の様子。「こういう人がこのようにここにいた」という当たり前の事実こそが、何よりも重い。