1.《ネタバレ》 19世紀末のフランスを舞台に、ひたすらストイックに料理に向き合う一人の美食家と料理人である彼の妻との静かな生活を淡々と描いたヒューマンドラマ。最後までまったく音楽を流さず、主要登場人物も3、4人だけ、映画のほぼ7割くらいは自宅でひたすら料理を作っているか食しているだけという、なかなかに挑戦的な内容なのにも関わらず、最後まで淡々と見せ切るこの監督の手腕はさすがと言うしかない。小鳥の囀りや虫の鳴き声、そよ風に揺れる森の樹木が奏でる葉音、そして食材を切ったり煮込んだりする調理音の中で交わされる知的でウィットに富んだ会話劇。出来上がってくる料理がどれも馴染みがないにもかかわらず、全て美味しそうに見えるのもこの監督のセンスがなせる技なのだろう。20年の時を経て、晴れて夫婦となった主人公2人を襲う悲劇も必要以上にドラマティックに描かなかったところも好印象だ。ただその反面、最後まであまりに淡々と綴られるこの2人の物語にはおそらく賛否が分かれるだろう。自分は少々退屈に感じてしまった。ユーラシア皇太子からの依頼にフランスの代表的庶民料理であるポトフで勝負するという最後の重要な場面が、何故か曖昧なまま終わってしまったのもいかがなものか。全編に漂う気品に満ちた雰囲気やストイックなまでに料理に拘った画作りなどはすこぶる良かっただけに、惜しい。