9.《ネタバレ》 子供向け映画でありながら、どの場面も手を抜かず、丁寧に仕上げられており、好感がもてる。
本物とみまがう潜水艦、迫力ある軍艦への突撃攻撃、巨大イカとの死闘、エキストラの数など、大作の雰囲気が漂っている。
しかし残念だが、特撮ものは時間の経過と共に色あせる運命にあり、本作も例外ではない。
今でも十分に観賞に耐えれるが、取り立てて見事な出来栄えとはいえない。
原作の書かれた1870年は、動力といえば蒸気機関しかなく、電球も発明されてなかった時代だったことを勘案すると、その豊かな想像力には感心させられる。原作は悲観的だが、本作は原作以上に悲観的だ。超凡な頭脳を持つ科学者のネモ艦長は、新エネルギーをはじめ、人類を幸福に導く数々の傑出した発明をものにしながら、それを世界に秘匿している。彼は過去に、戦争のための強制労働をさせられ、家族を殺されたという心的外傷により、人間を信じることができなくなっている。自分の発明がやがて戦争に悪用されることを極度に恐れている。それで信条を同じくする同士たちと潜水艦に乗り込み、七つの海を冒険し、海の神秘を体験しながら、自給自足の生活を送っている。いわば”人類の孤児”だ。
彼は戦争を憎むあまり、軍艦や火薬を積載した輸送船を見つけると攻撃を仕掛け、沈没させてしまう。戦争という暴力を憎みながら、暴力を使ってしまうという矛盾に満ちた人物である。
ネモと好対照なのがアロナクス教授で、人類の未来に対して楽観的だ。二人はお互いに認め合いながらも、意見は平行線で最後まで合意に達することができない。最終的にネモは秘密を死守するため、基地を爆破し、潜水艦もろとも海の藻屑と消える。
絵空事のようだが、考えてみれば、今日にでも何者かが将来人類を滅亡に導くような大発明、大発見をするかもしれない。原発事故で分ったように、人類に有益な発明に見えても、使い方を誤ったり、事故が起れば、たちまち人間に牙を剥く。
そういう意味で、誰もネモを笑うことができない。
もし水爆より数段も威力のある非核爆弾の原理を発明したとしたら、誰でも一瞬、発表をためらうのではないだろうか。
ウェルズが提示した”戦争をやめられない人類の愚かさ””科学の進歩に対する不安と恐怖”は、今でも新しい。
演出面でネッドや助手が空回りしている印象があった。ネッドは笑いがとれないし、助手は不気味さが漂う。ミスキャストである。