2.《ネタバレ》 ドラゴンを描いた映画としては重要な作品。
竜=ドラゴンが登場する映画は数多くある。「ドラゴンハート」や「サラマンダー」、最近では「ホビット」のドラゴンが印象的だった。
1981年公開のこの作品は、ドラゴンを描いた映画のターニングポイントとして評価したい。
それまで、映画に登場するドラゴンといえば、ハリボテ製で動かずに首を振りながら煙を吐くだけだったり、いかにも人形のコマ撮りだったり、動作のノロい機械じかけだったりと造型的リアルさにも、生物感にも欠けていた。
『ドラゴンスレイヤー』は、ILMがSTAR WARSで培ったモーションコントロール撮影技術をコマ撮りに応用し、被写体にブレを生じさせることで複雑かつスムーズなモデルアニメーションを可能にした映画で、ブルーバックで撮影したドラゴンが生き生きと羽ばたいて飛び、地下を這いずり回る巨大な翼竜(ワイバーン)の映像を実現している。
バーミスラックスという固有名で呼ばれるドラゴンのキャラクターも素晴らしい。残忍な性格。人間のように賢く、生贄を好む一種の神として(王よりも強い力で)領土を支配している。反面、子育てをする動物的な性質があり、ファンタジーとはかけ離れた生命感あふれるドラゴンだ。ディズニー映画なのに・・・である(笑)
ストーリー的には、竜退治を書いたいくつかの神話(「叙事詩ベオウルフ」の神器も敵わない竜との相討ち、「聖ゲオルク」の王女の生贄など)をベースに創作されているように思うが、《魔法使いとドラゴンの戦い》というファンタジックな設定にしては少々エグい。
救うべき王族の美女が、あろう事か幼体ドラゴンの餌にされ、精神的に病んでしまった王の姿が陰鬱(いんうつ)で暗く。竜がいなくなった王国も何だかハッピーではない。日本で劇場公開されてなかったのも、その為か。
主人公も、しょうがなく師匠の代わりに竜退治するハメになった魔法使いの弟子なので、彼の冒険物語ではなく《ドラゴンや魔法使いに象徴される神話的世界の終わり》を描いた映画といった方が正しいでしょう。
「ホビット」や「ロード・オブ・ザ・リング」も神話時代から人間の時代への転換を描いた映画で、ホビットの竜=スマウグの造形や描写は、ドラゴンスレイヤーのバーミスラックスに対するオマージュではないかと思える程。
もっとも、バーミスラックスの方がホビットの原作『ゆきてかえりし物語』にインスパイアされて造形された可能性もありますが・・・
「バンデッドQ」で《神》を演じていたラルフ・リチャードソンが、老魔法使いウルリク役。
「竜も魔法も時代遅れ」と自覚しながら来客には大げさに威厳を見せつけたり、老骨にムチ打って旅に出掛けようとしたりとチャーミング。「スター・ウォーズ」銀河帝国の皇帝(シス暗黒卿ダース・シディアス)イアン・マクダーミドも神父の役で出演して、ここでも壮絶な死に様を見せてくれる。
日本ではVHSとLDが既に廃盤。字幕入りDVDは未発売で、海外版DVDしか今のところ観る手段はない。
発掘系シネマとしてDVD化して欲しい一本です。