1.《ネタバレ》 自らも娘を捨てた過去をもつバーグマンが、あえて挑んだ母親役なのだと思う。バーグマンが見て欲しかった相手は、捨てた娘だけであろう。
娘役のウルマンはどこまでも母を責め、母のバーグマンは一応は許しを乞うがまた元の生活に戻っていく。接近した惑星どうしが、また遠ざかっていくような感じがある。
娘というのは母親に完璧を求めるもので、特に母親が「女」を発揮すると一生許さない。娘にとって、母親は「女」であってはならないのだ。
娘は「あんたはこんなにひどかった」と言いつづけてネタに事欠かないが、それは「こうであってほしかった、ああであってほしかった」という際限の無い要求の裏返しで、ヨソのお母さんと比べたらひどいということではなく結局のところは「母親として完璧でなければ許せない」なのだ…けれど、完璧な母親が存在しないということはいくらなんでも娘もわかっているだろう。どこの世界でも、娘は妥協して生きている。
けれど、エヴァにはヘレーナが居た。かつてヘレーナが母親の恋人に恋したとき、母親はあてつけに4日も早く旅立って恋人を取り戻した。意地悪をして、ヘレーナの恋心を踏みにじったのだ。それが原因でヘレーナの病状が悪化したとエヴァはいう。もともと母の恋人だろうが、母は娘であるヘレーナに対し「成熟した女」としてまともに威力を発揮してしまった。これは大マチガイだ。母親が娘と張り合ってはいけない。母が女を発揮するだけで娘は許せないというのに、これは最悪だ。だから、許せない。幼少の頃から構ってもらえなかったとかいうことだけなら、たぶんエヴァもヘレーナも母を許せたのだと思う。
そんな情けない母親でも、エヴァは過去を直視してほしい、少しでも母親らしくなってほしいという希望を捨てられない。無視しきれないのだ。けれど、作り手ベルイマンも、演じ手バーグマンも、こう思っているのではないかと思う。「母親に何かを期待するのは無駄である。」と。
完璧な母親はいない、すべての母親はシャルロッテほどひどくはなくとも足りないところがある、そして母親であろうとも一人の女として好き勝手に生きていく。娘は母親の人生に対して干渉しようにも完全に無力であり、それを傍観せざるを得ないのですよ、という意味のエンディングだと思う。
それにしても、リブ・ウルマンという女優さんは首が太くて肩もガッシリしてごついなあと思った。