1.冒頭で梯子を登るナナを追う上昇移動を始め、従来の短縮版(98分)と比べ復元版(140分)ではかなり多様な移動ショットがみられる。屋敷内の調度品や天井画まで映る大広間のセットなど美術(クロード・オータン=ララ)の豪勢ぶりを示すロングショットも増え、いかにも大作といった感が増している。後半でカンカン踊りに湧くダンスホールのルノワール的な賑やかさも壮観だ。大半は舞台的な室内セットを中心としたフィクス主体の空間造形ながら、ドアや衝立の背後といった見えない空間で起こるドラマを用いて空間の奥行きと広がりを感じさせるのはさすが。そして、ナナ役:カトリーヌ・エスランが見せる高慢かつ淫靡な悪女イメージの強烈さも見所のひとつ。邪気と無邪気の同居する、滑稽なまでに憎々しい表情と身振りが天晴れだ。ただこの作品、屋外シーンが少ないのが残念なところ。撮影上の制約ではあるだろうが、競馬の場面も『獣人』や『カトリーヌ』の荒々しい疾走感に比べるとやはり物足りない。