2.《ネタバレ》 田舎から上京した柔弱な郷士青年・江波三郎が、新選組にあこがれて入隊するも、苛烈な規律で隊士を統率し、違反者は容赦なく殺戮するという恐怖の支配する閉塞的組織の中で徐々に人間性を失っていく様子を描く物語。と、視聴中思って疑わなかった。血を見ただけで卒倒していた江波が自ら切腹の介錯を申し出るようになり、又女中さととの恋愛も悲恋に終り、悲劇を盛り上げるものと信じていた。しかし最後に思わぬどんでん返しがあった。江波は近藤派に殺された、新選組初代隊長・芹沢鴨の甥で、復讐を誓って新撰組にもぐりこんだのだ。しかも坂本龍馬の海援隊の間諜でもあった。こうなると話が違ってくる。現実主義的手法で殺戮を繰り返す侍達の人間性を冷徹に描く筈が、単なる復讐譚に堕してしまうのだ。物語の軸がぶれており、失望感がぬぐえきれない。
新撰組の鉄の掟に辟易しながらも、心情的に近藤から離れられない沖田総司の葛藤の描写も全くの無駄に終る。沖田は江波のまだ汚れていない純粋な精神を見込んで新撰組に入れたのだ。だから江波の変化を意外に思うし、新選組の暗黒史である芹沢鴨暗殺の秘密も洩らす。その辺りの両者の微妙な心情変化もよく描けていた。結局のところ、江波の正体が間諜で近藤を狙う刺客であるという設定が全てを台無しにした。近藤を狙う機会はいくらもあったのに、何もしなかったという矛盾もある。舞台のほとんどが新撰組の屯所の中だけなのも不満だ。不逞浪人を取り締まる外でこそ新撰組の面目躍如があるからだ。途中までは非常に良いのに最後でしくじった作品である。白塗りのない大川橋蔵が見れる貴重な作品だが、興行面では失敗だったとのこと。