1.《ネタバレ》 ホンサンは北朝鮮の特殊部隊を脱走し、フランスの外人部隊に身を投じようと密入国してきた 篤実な男。
チョンへは韓国人の画家だが、落ちぶれて窃盗を繰り返し、仲間から爪弾きにされているチンピラ。共に祖国からのはみだし者という共通点がある。二人は大道芸で糊口をしのいでいたが、マフィアに引き抜かれて 裏社会に入り込んでいく。
二人の友情を縦糸、二人の恋愛を横糸として物語が紡ぎだされるが、展開は犯罪映画の定石の範疇を越えず、感動できる程の深みは無い。それよりも暴力と性愛場面が異常に多いのに辟易させられる。例えば、チョンへがあこがれる女が、恋人から暴力を受ける場面は何度もあるが、どれも似たり寄ったりで、冷凍鯖で殴られ、壁の女の肖像画にカメラ目線が移動して終る。
感心したのは人間関係が濃厚な点。ホンサンがフランスに入国するときに、列車で相席になった女がいた。この女が車掌に「連れだ」と証言してくれたことで密入国が叶った。この好意でホンサンは女に惚れる。ホンサンが立寄った「覗き部屋」で女が出演していて再会する。女の恋人はマフィアで、二人の所属するマフィアの敵対組織だった。彼はチョンヘによって殺される。女は復讐を誓う。運命の歯車がどんどん狂っていく様子が冷徹に描かれている。
想像力を駆使した構図、原色の色調など、映像美は目を見張るものがある。塑像に扮装する女性や、誰もの意表を突く“冷凍鯖殺人”などは視覚先行ゆえの着想なのだろう。水に対するこだわりも随所に伺える。チョンヘのアトリエは川辺に係留する船で、根無し草を意味する。二人がマフィアに袋に入れられ、海に投げ込まれる。そして最終場面では、南北二人の血が流水に混じり合って下水道の中へ消えていく。南北統一の想いが込められているのだろう。鮮烈な印象を残す。ただし感動は薄い。というのは、これの前の場面で、二人は袋ごと海に落とされるという絶体絶命の場面があり、そのため、女に射殺されるのは“おまけ”のように映ってしまう。また、女がホンサンを自分の恋人殺しの犯人と断定した理由が、ロレックスの時計だけだという点も弱い。同じ型の時計はいくらでもあるのだから。