1.《ネタバレ》 芸術の都、ウィーン。大金を得るため、高級売春クラブで働くことを決めたブランカ。最初についた客に会いにホテルのバーへと向かうと、そこには妻のいる身でありながら初めて女を買おうとするエリートサラリーマンのマイケルが待っていた。一方、ロンドンで働くマイケルの妻は若い写真家との不倫に苦しんでいた。物語の語り手は、そこからその若い写真家と別れてブラジルへと帰ることを決めた恋人へとバトンタッチし、さらには飛行機で彼女と偶然隣り合わせた遠い過去に失踪した自分の娘を捜す老人、自分のなかに蠢く歪んだ欲望に苦しむ出所したばかりの元性犯罪者、同僚で人妻でもある女性への恋に苦悩する歯科医、ボスから犬のような扱いを受けているチンピラマフィア、と次々と移行していく。それにつれて舞台も、ウィーンから、ロンドン、パリ、ロシア、アメリカの各都市、ブラジルのビーチへとまるで奔流する大河のように世界を駆け巡り、最後は広大な大海原へと還元するかの如くウィーンの売春婦へと360度の円環を閉じてゆく。「シティオブゴット」で鮮烈なデビューを飾ったメイレレス監督が、豪華な俳優陣を起用しこれまでに培ってきた技巧を駆使して描き出した群像劇。と、聞くととても壮大でドラマティックな作品を思い浮かべるけど、今作は意表を突くほど地味な展開が最後まで淡々と続きます。それなのに相変わらずの見事なストーリーテリングで、最後まで観客を飽きさせないところはさすがでした。うまくいかない男と女、親と子、上司と部下、それでも人生は一度きりと幸せになるチャンスを必死に手に入れようとする人々の姿が、観終わったあとも良い余韻となって心に残ります。豪華俳優陣のわりに、あまりにも地味すぎて世間ではいまいち評判にならなかった作品みたいだけど、僕にはなかなかの良品に思えました。