1.《ネタバレ》 "ブルースの母"と呼ばれたマ・レイニーとバックバンドの、あるレコーディングの一日を描く。
表題になっているマ・レイニーは実在する人物だが、出演場面は"彼"ほど多くなく、戯曲を基にした完全なフィクション。
その"彼"とは、チャドウィック・ボーズマン演じる野心家のトランぺッターであるレヴィーだ。
感情豊かに変幻自在に密室劇を掻き回す。
そして身勝手で馴れ馴れしい。
彼とは別のベクトルでマ・レイニーも傲慢で横柄な態度を取る。
ひたすら押されるだけで大人しい白人のマネージャーとプロデューサーに、何も知らない人から見れば同情したくもなるが、
マ・レイニーもレヴィーも差別が横行する世界で生き残るために虚勢を張っているとも言える。
ただ成功者であるか否かの違いでしかない。
レヴィーはひたすら白人に媚びへつらうしかなく、作曲しても安く買い叩かれる。
逃げ場のない鬱屈がひたすら積み重なっていき、そしてちょっとした諍いが悲劇に繋がってしまう。
黒人の音楽であるブルースが白人の所有物としてすり替わっていく最高に居心地の悪い結末が後を引く。
この世界には神なんていないのかという嘆きは、
黒人の地位向上のために戦ってきたチャドウィック・ボーズマンの心象そのものなのか。
夭折ながら遺作に相応しい。