1.《ネタバレ》 日本人にはほとんど発音できないし覚えられないという気の毒な名前の監督ですな。おかげで、なるべくならこの人を無視して通り過ごしてしまおうなどと思ったりしないでしょうか。
そんなものぐさは私だけでしょうが、この作品は日照の少ない国らしい独特の暗さが炸裂していました。
ほどよく日が当たれば人々は笑顔になり、あんまり日が当たらないとへの字口になる。
あんまり日が当たらないだけでなく、暖房しないと生命の維持ができないようなところに住むと、とても険しい顔になってきます。ポーランドというところはこの当時政治状況も悪くて、男も女も人はみなとても険しい顔をしています。私はそれがなにより怖い。
その険しい顔の男女しか出て来ないこの作品では、二人の女が夫を取り戻そうと四苦八苦します。
1人は生きた状態で夫を確保できたけれど、たぶん心は取り逃がしてしまったのでしょう。
もう1人は夫を取り戻すために自分があっちの世界へ行ってしまう。
この話では、弁護士秘書以外の大人も子供も男も女もそれぞれの人が私的な欲望だけで動いていて、それは最後までそうなのです。
しかも、死んだ人間までそうなので、アンテクの亡霊はこういった場合にお約束の「妻子の幸福を願って」いるのではなくて、妻を呼び寄せようとしているように感じられる。そして?マークとか突然のエンジンストップとか黒い犬とかで死人が現世に直接作用してしまうという特異な展開により、ウラはアンテクの存在を信じてしまうのです。
アンテクの霊が存在することを確信したからこそ、自由にコミュニケーションが取れる状態にするためには自分がそっちに行くしかないという選択をすることになるのです。
「社会のため」「組織のため」「友人のため」「子供のため」とかいう「自分以外の誰かのため」という行きかたを全部捨てて、ウラはアンテクのところへ行くので、ひたすら個人的な目的を達成したといえる。
ウラが子供を捨てたことも充分に意外ですが、死人が〝善人〟にならずに私的な欲望のために動くというのも洋の東西を問わず常識を裏切っていると思います。私は観客を裏切ってくれる映画が大好きなのだが、コレに関してはどうも喜べないイヤ~な気持ちで終わりますね。所詮は凡人なので、「死んだお父さんは、妻子の幸福を願い見守っている」と思いたいのです。