6.《ネタバレ》 この映画のラストのユンゲの告白、これを蛇足と見る方もいらっしゃるようですね。もしこれが無かったら多分この映画は冷徹な目によるナチの崩壊の姿のドキュメンタリーといった様相を色濃くみせた作品となったことでしょうし、この映画にそういった役割を求めた方々にとっては、確かに最後の彼女の告白は白けさせるものだっただろうと思います。 だけど私にはこの映画には、淡々と客観的に最後の日々を描くドキュメントとしての性格以外に大きなメッセージがあったのではないかという気がしてならないのです。 というのは、この映画で私が最も印象的に感じたのが、ヒトラーの「国民が死ぬのは自業自得」という言葉とユンゲの「知らなかった(では済まされなかった)」という言葉だったから。 そうです。確かにユンゲは「(数々の犯罪行為を)知らなかった」し、実際無罪となった。それにもかかわらず「だがそれでは済まないことだった」と反省している (多分彼女も多少なりとも良心の痛みのようなものを感じていたのでしょう)。だがむしろ私はこの告白の中に、「反省している私」を正当化して欲しいという彼女の狡さをも感じてしまうのです。この告白を入れたことに批判的な方々も多分そのあたりが気になるっているのではと思うのですが・・・ でもおそらくその狡さっていうのは彼女だけの狡さではなく、当時のドイツ国民全てに、さらには同じく敗戦国である日本国民全てに、そして「数々の不正に薄々感づいていながらも保身のためにあえて鈍感にやりすごしたことが一度でもある」世界中の多くの善男善女にも当てはまるものなのではないでしょうか?だからこそラストにこのモノローグを入れることで作品中幾度か出て来るヒトラーの「自業自得」発言が生きてくる。ここでユンゲの狡さを垣間見させることで、それがヒトラーの一方的決めつけではなないということを再度確認させるのです。 私たち国民は主権者です。だがその一方で「どうせ自分は無力」と感じている人がほとんどなのが現状でしょう。こうした矛盾した「大多数の主権者」の「無力さ」とその「無力を言い訳にする狡さ」または「間違いを犯してもそれを素直に認めたのだから勘弁してという狡猾さ」といった一般人の弱さや狡さをもまた「ヒトラーの人と也」や「実際の第三帝国の崩壊の様子」に加えて、この映画は描きたかったのでは?・・・私にはそんな気がしてなりません。 【ぞふぃ】さん [DVD(字幕)] 7点(2007-11-21 17:10:44) (良:3票) |
5.邦題では「ヒトラー」を前面に打ち出してますが、内容は「第三帝国最期の12日間」。敗色濃厚な軍事政権がどういう末路を辿るのかを、淡々としたドキュメンタリー・タッチで見せてくれます。私が感銘を受けたのは映画本編よりも、ラストに登場するトラウドゥル・ユンゲ本人のインタヴュー。とかく我が国では戦時下を描く場合、「大空襲の悲惨さ」「被爆の悲劇」「横暴な憲兵や軍人」等を取り上げ、「一般国民は戦争の被害者である」ことを強調する場合が多いと思う。本作を観れば被爆を除いて、ナチス・ドイツも同じだったことが良く解る。しかしユンゲは語る、「私にも責任がある」と。その通り。ヒトラー一人では決して戦争は起こせません。国民一人々々の支持があってヒトラーも戦争が起こせたのであり、それは我が国も同じこと。もちろん多くの日本人が戦争被害者であったことに変わりありませんが、同時に加害者でもあったという視点も忘れるべきではありません、7点献上。 【sayzin】さん [映画館(字幕)] 7点(2005-08-26 00:10:10) (良:3票) |
4.ハリウッドにとって戦争映画は娯楽の範疇に入るジャンルですが、一方敗戦国である日本やドイツにとって直近の戦争はナーバスな題材であり、これを扱うことには相当なプレッシャーがかかります。とりわけ本作の題材は国際的な物議を醸すことが分かり切っていたものだけに、ドイツ映画界は相当な覚悟を決めてこれに臨んでおり、ファーストカットから「これは並みの映画ではない」という張りつめた空気感が漂っています。それは、見ている私までが緊張させられたほどであり、他の映画ではちょっと味わえない感覚に満ちています。 物語は、一義的にはナチス崩壊の過程を知ることができる歴史作品なのですが、普遍的なリーダーシップ論や組織論として見ることもできるという、一粒で二度おいしい仕上がりとなっています。圧倒的なカリスマ社長のワンマン経営で引っ張られてきた会社が、いよいよ倒産という事態に陥った。社長のコバンザメに徹するという処世術で出世してきた幹部達は何の打開策も打ち出せず、根性のある一部の外様部長達が現実路線で粘って何とか現場が持ち堪えているという状況です。経営者は「お前らが言うことを聞かなかったからこんなことになったんだ」と部下を怒鳴ったり、現実的にありえない新規事業や大口融資を根拠とした起死回生案を側近のイエスマン達に向かって得意気に披露したりと、そこはまさに修羅場なのですが、職業柄、私が見てきたベンチャー企業の末路は本当にこんな感じです。何らかの組織のリーダーをやっている方は、本作を見ると少なからず身につまされる発見があるのではないでしょうか。 問題点は、登場人物が多すぎてドラマがやや散漫となっていることでしょうか。ドイツ人にとっては名前を聞いただけでピンとくるナチス幹部であっても、我々日本人にとっては名前こそ知っているが何をした人なのかは分からないという人物が多いため、ドラマへの没入感がどうしても薄くなってしまいます。 ドイツでの公開時には論争を巻き起こしたとされるヒトラー関連の描写については、ナチスをタブーとしない日本人にとっては大してセンセーショナルなものでもなく、こちらでもやや拍子抜けさせられました。ヒトラーは充分すぎるほど否定的に描かれているし、映画全体の内容もナチズムを賛美するものではなく、なぜこの程度の描写に怒る人がいたのか不思議に感じたほどです。ヒトラーは『イングロリアス・バスターズ』に出てきたような癇癪持ちの小男でなければならないとするのであれば、それこそ歴史を矮小化する行為ではないでしょうか。現実離れしたモンスターと、普段は紳士であるが敵と見なした相手にはいくらでも残酷になれる指導者、どちらに警戒せねばならないかと問われれば絶対に後者の方でしょう。 もうひとつ残念だったのは、冒頭とラストに主人公・ユンゲ(及び本作製作者達)の逃げ口上ともとれるナレーションを入れてしまったこと。「ヒトラーに仕えた私は愚かでした」という現在の価値観に基づく発言が入ってしまったために、歴史映画としての価値が少し下がりました。そこは徹底的に戦時中の描写に徹し、製作者は良いも悪いも判断しないという姿勢を貫徹して欲しいところでした。 【ザ・チャンバラ】さん [DVD(吹替)] 7点(2016-02-23 14:03:59) (良:2票) |
3.《ネタバレ》 「怒る技術」という本を昔読んだことがあるのですが本当に腹がたつから怒っている人と、人身掌握のために巧妙に他人に対して怒りを表現している人がいるようです。ヒトラーは後者であり、その怒りはポーズだったと思う。ヒトラーは最後まで狂ってはいないしヒステリックだったわけでもない、最後の12日間における怒りは自分の身を守るための人為的な演技であり、彼はとうとう最後まで「怒る」という演技を貫き通したのだと私は思えてなりません。 ヒトラーとは何者なのか?我々は普段の生活でも「あいつはヒトラーのようなやつだ」ということを日常会話で使うことがありますが、ヒトラーは「独裁者」「悪魔」の代名詞に使われることが多い。しかしこの映画を観て、彼が「ふつうの人間」であったという事実に第3者の日本人は驚き、被害者のユダヤ人は「嘘だ!」と大声で叫び、当事者のドイツ人は「まずいことを言ってくれたな」と苦い顔をしたはずです。彼が悪魔ではなく人間であったという事実を提示しただけでこれだけ多くの人が心をかき乱す。ちなみに日本では東条英機を題材にした「プライド・運命の瞬間」という映画がありますが、これはA級戦犯を美化していると問題になった作品で日本人からさえも非難の嵐でもちろん中国からクレームがつきました。しかしあえて言わせていただきたいのは、加害者であるという立場を恐れず、また他国の誤解を恐れずに日本とドイツはこのような映画を作り続けて欲しい。 久しぶりに映画の「役割」について深く考えさせられました。 【花守湖】さん [DVD(字幕)] 7点(2006-03-26 17:17:04) (良:2票) |
2.エバ・ブラウンはなぜあんなにオバサンなのか?すごく若いのではなかったか?調査不足ではあり得ない意図的な設定と思われるのでこの点が興味深い。ゲッベルス役の人の顔が人間離れしていて怖い。腹話術の人形のようだ。ゲッベルス夫人役の女優さんがすばらしい。アカデミー賞をあげたいと思う。首相夫人としての威厳を最後まで保った彼女を演じきった。以下ヒトラーとナチス時代のドイツ「人」について思ったこと。ヒトラー、ブルーノ・ガンツの演じる彼を見ていて、「ああ、この人ってもしかして、子供の頃におもちゃをあんまり買ってもらえなかったのではないかなあ」と、ごく自然に感じた。私にはヒトラーが、「欲求不満のまま大きくなった男の子」に見えた。それだけならよかったけれど、たまたま彼には人並みはずれたIQと、弁舌の才と、小心者ゆえの人の裏切りにするどい嗅覚があったためにこんなことになったのではないかなあ。案外そんなところじゃないかしら。どんな権力を手にした人間も、それが「男性」であれば、問題の根っこはくだらないところにある、というのが私の長年の研究結果である。ベルリンは、彼が造った最も高価なおもちゃであって、他人に盗られるくらいならその前に壊してしまえ、という幼稚な感情が伝わってくる。本当に幼稚園児の発想だよねえ。IQ高そうだけど。ドイツ「人」について。彼らはなぜヒトラーを選んだのか。「先の大戦」の敗戦により屈辱と苦難を強いられたこと、これは民族のトラウマとなっている。「降伏は二度とごめんだ」という言葉にも現れている。国内事情が良くない時、日本は「国の外」にしわよせすることで切り抜けようとしたが、ドイツでは、「国内の敵」にしわよせしようとしたんだな、きっと。特定の民族や、障害者の地位を下げるということは、「そうでない人」が相対的にグレードアップすることに他ならない。「そうでない人」のドイツ人がこれを「よし」としたのは、損得勘定からいえば自然なことだ。良心をワキに追いやれば。(このごろの日本もこれに近づいているな)「あいつはとんでもない悪魔だから非難していればいい」と、ヒトラーとナチス・ドイツの時代に蓋をするのではなく、その時代を生きた自分と同じような市井の人々の心情に想像力をめぐらすことこそが、「知性」の使い道と思う。私の場合はそのために実話もの映画を見ることが多い。(司馬遼太郎のうけうり) 【パブロン中毒】さん [DVD(字幕)] 7点(2006-03-08 00:01:22) (良:2票) |
1.《ネタバレ》 この作品と「日本のいちばん長い日」を比較すると、日本とドイツの負け方の違いって何処にあるんだろうと考えさせられる。最終的には「御聖断」の有無なのかな?結局は成り上がりの独裁者と歴史と伝統を重んずる皇室との国に対する価値観の違いなんだろうけど。(成り上がりがTOPに君臨する組織って成功失敗紙一重で、まあ破綻する場合が多いね。最近の新興企業の崩壊見てるとそう思う)でも、ドイツが負けた時に日本も早期に決断していれば、と思うと残念でならない。小泉改革の新自由主義に熱狂したかと思えば、こんどは格差社会が不満だとバラマキ民主党支持したり、結局は国民がその場の雰囲気に流されて指導者を選んでしまうのはいつの世も変わらんなと。でも、それを操作してるのはマスコミで、我々はマスコミに騙されないようにしないといけないな。新聞1誌読んでもバカになるだけ。全く読まないか5誌全部読むかしないと。(ってレビューになってない?) 【東京50km圏道路地図】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2007-11-03 21:06:31) (良:1票) |