1.《ネタバレ》 世間・当局が彼女に繰り返すのは「落ち着いて、落ち着いて」という言葉。これが最もいらだたせる言葉なわけ。落ち着いた市民の良識へのいらだち。落ち着いた市民たちの無言の圧迫が怖くて、彼女はさらに反発していく。落ち着いている当局の者たちが、落ち着いたまま子どもを連れていく怖さ。チャップリン以来の永遠のテーマなのだろう。ただたしかに児童虐待という問題もあって、家庭をあまり聖域視することは最近とみに難しくなっている。まあこの場合外国人への偏見もあったりするんだけど。彼女を一目で同情できるようには造形してなく、正直言ってあんまり近くにはいてほしくないタイプとしてズルくなく描いているのが立派で、そのためにかえってドラマに説得力が出た。最初の二人の子どもが連れていかれる場が充実していたが、二人目の子どもを産み落とそうとしたくなくて抵抗するところも凄い。腹の中に入れたままにしておきたいのだ。題材からして、もうちょっとユーモアを入れてほしいという注文は無理かも知れないが、もとの旦那の不意の暴力など息苦しすぎるので。