31.《ネタバレ》 ハリウッド大作にありがちな妥協がみられず、製作者の思い通りに映像化できたのではないか。ある意味では“本物志向”のゾンビ映画に仕上がっており、映像的には、かなり見応えがあるものとなっている。
毒ガスの扱い・ヘリコプターのプロペラや、神出鬼没のカーライルなどは必ずしもリアルとは言いがたいが、映画である以上目をつぶれるレベルだ。
映像面では見応えはあったが、ドラマに関しては、少々弱いとは思う。
キーワードとしては、「見放す」ということが全編を通して描かれていたのではないか。「夫は妻を見放す」(冒頭のキスと中盤のキスがリンクしているが、中盤のキスが悲惨な結果を招くのが面白い仕掛け)「アメリカ軍は民衆を見放す」。
どちらもやむを得ないケースであり、自己や他の民衆を守るための措置だ。
しかし、本作は「果たしてそれでいいのか」という問いかけをしているとも思う。
「兵士や科学者は姉弟を見放したか」「姉は弟を見放したか」「弟は姉を見放したか」を描くことによって、答えをきちんと描いているが、この答えに対するドラマに盛り上がりがやや感じられない。
特に、姉と弟の関係は、工夫次第では何らかの感動を与える仕掛けともなったはずだ。
「どんなことがあっても離れたりしない」と誓いあった割には、あっさり過ぎないだろうか。大きなクライマックスの引き金になるものだと期待していた。
父は母を見捨てたから悲惨な結果を招いたのだから、姉が弟を見捨てなかったことで何らかの“希望”が生まれてもよかった。
あまりリアリティのない“ミラクル”を描くと、全体の世界観を損なうかもしれないが、姉と弟の関係に対しては何かしらの工夫をしてもらいたかったところだ。
ラストの意味は、初見でははっきりとは分からなかった。
キャリアがヨーロッパ本土に辿り着いたことで、被害が本土に拡大したという見方が素直な見方だと思うが、ひょっとしたら、弟の血液からワクチンを作り出し、予防接種しておけば、噛まれたり、血液や唾液を飲み込んだりしてもゾンビ化しないで済むようになったのかもしれないという見方はできないだろうか。
前作同様に“絶望”というよりも、“希望”と考えたいものだ。
そうでなければ、姉と弟の絆や、姉弟を守ろうとした兵士や科学者の役割・行動が逆に悲惨な結果を生んだということになってしまう。さすがにそこまで悲惨ではないだろう。