1.《ネタバレ》 B級映画の帝王ロジャー・コーマンは配下の若造に次のような話を持ちかけました。「ボリス・カーロフの契約が二日残っている。カーロフが出演している俺が監督した『古城の亡霊』のフィルムを有効利用して彼が主演の映画を一本撮ってみないか?」 その若造こそ、まだ映画監督したことがなかったピーター・ボクダノヴィッチだったのです。パワハラ上司の無理難題ですが、監督デビューをするには引き受けるしかありません。かくして必死で脚本を書いたボクダノヴィッチは持てる才能を発揮して本作を完成させたのでした。 というのがウソみたいなホントのお話しだそうですが、ヴェラ・ルゴシを使って映画を撮ったエド・ウッドとかぶってしまいます。ボクダノヴィッチはスチュアート・ホイットマンの『テキサスタワー乱射事件』をモチーフにして、カーロフが演じる怪奇映画の老スターが事件の狂言回しになる実に奇抜な脚本を書き上げました。エド・ウッドと違って才能あふれる監督だと、同じような悪条件でもこうも出来が違うのかと感心させられます。 本作の中では20分近く『古城の亡霊』の映像が使われていて、今ではなかなか観ることができない『古城の亡霊』の雰囲気が判ります。ホイットマンの実際の行動を基にしたライフル魔の描写がけっこうドキュメンタリーっぽくなっていて、銃や弾薬を準備する描写など実にハードボイルドなのです。この犯人が、『古城の亡霊』を上映しているドライブイン・シアターに潜入してスクリーンの背後からライフルを乱射するというのがまた素晴らしいアイデアです。ラストでは老カーロフが犯人逮捕に活躍するのがご愛敬です。このカーロフの役柄は、ボクダノヴィッチの大先輩に対するリスペクトが感じられて微笑ましく感じました。日本では未公開、アメリカでもほとんどお蔵入り状態で現在ではカルト映画と化してしまった本作ですが、一度観る価値は十分にあると思いますよ。