1.成瀬が第二の小津と言われたのは、あくまで小市民の哀歓という題材によるのであって、フィルムはもう完全に異質。窓から室内を見たり、保険の話を妻としている時にその話題の家族のインサートカットがナウく入ってきたり、表現主義風のところなんかネガまで使っている。病室のシーン、ぽたんぽたん手術皿に水がしたたってそこで蝿が溺れかけているなんてナーヴァスに迫ったかと思うと、逆光で母がうろうろしているとこの光と闇の美しいこと。こういったものは全部小津にはない。そして成瀬の特徴とも言えるトボトボ歩きがある。画面の右上に向ってやや俯瞰気味で少年がトボトボと歩いていく。この情感は成瀬独自のもので、この現存最古のフィルムにも「成瀬ウォーク」が確認できたのは嬉しい(同年に作られた『ねえ興奮しちゃいやよ』ってののフィルム、どっかから出てこないかなあ)。外界が目に入らぬ人物と、その人物をそっくり包み込んでいる外界、どこへ行こうという歩行ではなく、自分自身を稀薄に溶かしてしまおうとしているような歩行。これが本当にいいんだなあ。PCLに移る前から、松竹の習作時代から、もう成瀬はナルセだったのだ。