2.《ネタバレ》 ドキュメンタリー調だが作為的なところが目に付く。“魚にキス”のあたりはいかにもな感じで、これで劇中人物や観客の気を緩ませようとするのがわざとらしい。また終盤では料理人の行動に不自然な点があり、こういう観客が違和感を覚える出来事を発端として最後の大事件を起こすというのは物語の作りとして甘いのではないか。これで落胆してしまったため、残念ながらあまりいい点は付けられない。
そのほか基本的なところはよくできているように見える。
社長はそれなりの規模の会社経営を担う身であり、役員会の監督を受ける一方で社員への責任も負う立場にある。大事を取るならプロに任せる手もあっただろうが、あえて自分でやることにしたのは多少の自信があったのと、やはり本人が言っていた通り最高責任者たる使命感からということか。当初は交渉案件の一つという認識だったかも知れないが、少なくとも銃声を聞いて以降は社長というより人としての責務がかなりの重圧になっていたように見える。結果的にはぎりぎりのところでうまくやれたわけだが、恐らく最後の悲劇のせいで、経営者としてはともかく一人の人間として、自分の経歴に真黒な汚点を残した思いだったのではないか。立派な人物のようでも一皮むけばその辺のオヤジと同じ人間なわけで、社会的責任の重い人はご苦労様というしかない。
一方で料理人は一般人なのでそれほど厳しい姿勢は求められないが、しかし会社のアドバイザーも言っていたように、契約を履行する感覚で身代金を払えば終わりになるわけでは全くなく、また些細なことで簡単に人命を奪う(自分以外の人命を尊重する観念が初めからない)人間がこの世界に存在することがわかっていなかったのは認識不足だったかも知れない。そのために、この料理人も元の幸せな家庭人に戻れなくなってしまったようだが、まあそれは殺された船長も同じだったわけである。結論的にいえば、現代の文明人(デンマーク人、日本人などの大部分)は生物種としての人類全ての生命を尊重しなければならないと思っているが、相手も同じとは限らない、という教訓を含んだ映画に見えた。この世界では“人の性は悪なり”と思っておくのが無難ということである。