1.《ネタバレ》 ホラーとしては、家の雰囲気や出来事に不気味さはある。しかしその辺に掲示した警句がいちいち現実化するとか、「男でも女でもない」ものが正体不明だといった個別の趣向は、物語に直接関係ないこけ脅しだったようでもある。
森のケモノに関してはストーリー上の存在意義もあったようで、終盤でドアの隙間から邪悪な目が覗いた場面はわずかながら本当に怖かった。また本編の最後に暗転したところで、黒いバックに母親の姿だけが残ったのも印象的だった。
物語としては親子の関係を扱っている。今回の件で、息子は外部とのつながりも使ってそれなりに対処できたようだが、母親の方が息子も信仰も失った後の孤独は他人事ながら切なかった。死者の魂が残っても、生者と心が通じないのではどうにもならない。
ところで全体のテーマは宗教に関することだったらしい。現地の教団は、昔の新聞では「Angel Cult」と書いてあり、集団自殺事件を起こしたとんでもないカルト教団かと思い込んでいたら、外部情報によれば死んだのは父親だけだったらしい(記事のMember'sも単数)。主人公宅が変な造形物であふれていたのもカルトだからでなく、主人公が収集したものを母親がまとめて入手したからということになる。人を集めて奇跡を起こしてみせるとか、閉鎖的なコミュニティとかはいかにも新興宗教的で怪しいが、監督の話によれば意外にも、カルトというより宗教一般(主にカトリック)を問題にしていたらしい。
宗教の意義と弊害は社会面・個人面でそれぞれあるだろうが、この映画では信仰があったために家族が解体する一方、信仰をなくしたことで母親が絶望的な孤独に陥った、という両面が出ていたように取れる。教団のいう「DESPAIR IS THE AFFLICTION OF THE GODLESS」は、母親に関しては正しかったということかも知れない。
その他のことに関して、家を売りに出した不動産屋はトロントに実在したもののようで変に現実味がある。また警備保障のサイトにつなぐと監視カメラ映像が見られるなど、古い屋敷のイメージを裏切る現代性が出ていたのは面白かった。
登場人物では、「アンナ」は真夜中の電話にもちゃんと応対する寛容で冷静な人物のようだったが、これは(元?)恋人とか友人というより医師としての職業意識からだったかも知れない。かつて宗教が果たしていた役割の一部を今は精神医療が担っていると言いたいのではないか。「アンナ」が天使だったということだ。