5.《ネタバレ》 白鯨の襲撃を受けて、船が瞬く間に破壊されるシーンは、迫力満点。
想像していた以上に「漂流」のパートが長く
(あんまり白鯨とは闘わないんだなぁ……)
と下がり気味だったテンションを、一気に高めてくれるだけの衝撃がありました。
序盤は「分かり易い悪役」であったポラード船長が、徐々に成長した姿を見せてくれる展開なんかも好み。
当初は対立していたオーウェン航海士と、少しずつ認め合い、再会時には喜びを見せる辺りも良かったですね。
鯨油を採る為に命懸けで船旅をしていたトーマスの口から「地面を掘ったら油が出てきた話」が語られる際の、何とも言えない笑みなんかも、非常に味わい深い。
もう危険な航海で油を集める必要もない、石油の時代への移り変わりを象徴する台詞。
とても雄大な気分に浸らせてくれると同時に、一抹の切なさも感じられました。
作中で最大の禁忌として扱われているカニバリズムに関しては、それを扱った品を既に何作も観賞済みなせいか、あまり大事には思えなかったりして、残念。
如何にも勿体ぶって描かれていた分だけ、こちらとしては少々白ける気持ちを抱いたりもしましたね。
結末では「全部を書く必要は無い」と、その禁忌をあえて秘した上で小説「白鯨」が書かれたという形になっており、作者であるハーマン・メルヴィルの優しさが示されています。
その一方で、本作品は「せっかくメルヴィルが気遣って隠しておいた秘密を暴く」ストーリーとなっている訳であり、そのチグハグさも気になるところ。
良い話として纏めているけれど、この映画の存在自体が「あえて全てを書かなかった」配慮と真っ向から反しているのではないかと、最後の最後で疑問符が残りました。
告白者であるトーマスの妻が、毅然として言い放った
「初めて会った時に、その話を聞いたとしても、私はずっと貴方の妻でいたでしょう」
という台詞が印象深いだけに、真実の秘匿を肯定的に描く形にはして欲しくなかったなぁ……というのが、正直な気持ちです。
そんな本作のクライマックス。
白鯨と目が合ってしまい、銛を突く手を止めてしまうシーンは、実に素晴らしかったですね。
とにかくもう「視覚的なメッセージ」の力が圧倒的で「何故、殺さなかった?」という作中の台詞に対しても、こんなに美しいものを殺せる訳が無いじゃないか……という気持ちにさせられます。
傷口を映し出す演出、そして白鯨が攻撃を加えずに去っていった事からするに
「白鯨と航海士との間には、闘いを通じて奇妙な友情が芽生えていたのだ」
と解釈する事も出来そうな感じ。
でも自分としては、白鯨があまりにも美しかったから見惚れてしまい、それを壊す事など出来なかったのだと思いたいところです。