8.《ネタバレ》 キャロルは、夫とはそりが合わず離婚したいが、子供は何よりも大切。
一方夫は、妻を手放したくなくて、子供を人質にして彼女を繋ぎとめようとしている。
そんな矢先に出逢った、自分を慕ってくれる若い女性テレーズ。
自然と惹かれ合うが、しかし彼女と付き合っていることで、親権が不利になる。
子供か、テレーズか。
子供を選んだ彼女は、テレーズを手放す。
この時点で、私は胸がとても苦しくなった…。
だって、もう完全に夫とは切れてる。紙切れ一枚の問題で、子供とテレーズどっちを取るかを迫られるなんて…こんなつらいことはない。
キャロルもつらいし、捨てられたテレーズだってつらい。
特に若いテレーズにとって、自分の趣味(カメラ)を理解してくれ、とてもセンスが高くて美しく、そして初めて知ってしまった甘い官能の世界を教えてくれた相手…
そう簡単に「お子さんのために身を引こう」なんて思えるわけがない。
つらい、苦しい…
こんな終わり方の作品なら見なければよかった…。
ところがキャロルはこれで幕を引く女ではなかった。
「子供もテレーズも、どっちも取ったるで!!!」
まるで男みたいにめちゃカッコイイ!!!
同性愛って、ホモにしてもレズにしても、やはりどちらかが男役、女役になってるそうだ。
(余談ですが、たぶん、エルトン・ジョンは男役。)
キャロルもたぶん男役なんだと感じた。
かくして、キャロルは親権は放棄しつつ面会権だけは死守して、同時にテレーズと同居できる環境を整える…。
”恋も仕事も大事”っていうフレーズはよくあるが”恋も子供も大事”っていうのは、夫とうまくいってない状況の妻が新しい恋に出逢った時に必ず感じるものであって、この心境が分かる女性は、同性愛が理解できなくても、テレーズを男性に置き換えることで、その時の辛さや葛藤をリアルに感じてこの映画に没入しやすいかもしれない。
(とはいえ、現実世界では、キャロルみたいに、ぱっぱと決断して、愛する相手と暮らすなんてなかなか可能性が低い。
それゆえ、この映画のように、とんとん拍子で物事がうまくいく展開に心揺さぶられるのだろう…)
ひさびさの再会で、テレーズはキャロルからの同居案を断るが、その後別のパーティーに行ったテレーズがキャロルのいるパーティーに戻ってきた時の表情は、いずれ同居もしそうという予感を感じさせる。
そして、ラストのキャロルの
「ふふふ…やっぱり、私のもとに帰ってきてくれたのね…いいわよ、さぁ来て」
的な魔性の微笑みが、グっときた。
困った時は元カノを頼って甘えん坊な一面も見せ、そしてラストでのこういうイケメンな余裕しゃくしゃくな表情…そのギャップ。
盗撮された時にピストルをふりまわす直情的な一面も含め、とにかくキャロルは、愛する相手と子供に全力で愛情を傾ける人間として生々しく、そしてとても愛おしく感じた。