1.《ネタバレ》 【注意!壮絶にネタバレしています】
『ミスティック・リバー』のデニス・ルヘインが自身の著作を脚色し、オスカーノミネート作『闇を生きる男』のミヒャエル・R・ロスカムが監督をしたということで、案の定暗くじめじめとした映画でした。数発の銃弾がぶち込まれるクライマックスのサプライズとカタルシスのためだけに残りの107分があると言っても過言ではない特殊な構成をとっているのですが、かったるい本編部分は旬な役者、実力のある役者のパフォーマンスで何とかもたせています。
トム・ハーディは真面目に仕事をこなすバーテンにして、犬を愛する優しい男。彼女に見当違いなキレ方をされても、刑事からしつこい尋問を受けても、チンピラに変な絡まれ方をされても怒ったり取り乱したりすることなく、淡々と受け答えをする物腰が印象的なのですが、あまりの落ち着きぶりにかえって裏の顔の存在を感じさせるという演出が実にいい塩梅でした。切り落とされた強盗の腕を丁寧にラップで包む辺りから「こいつはおかしいんじゃないのか」と思わせておいて、殺人マシーンであったことが判明するクライマックスでは「やっぱりな」となりますが、この振れ幅の激しい役をトム・ハーディは見事にこなしています。本作の8割は彼の魅力で出来ています。
これが遺作となったジェームズ・ガンドルフィーニは、新興のチェチェンマフィアの台頭によって権力基盤を失った元ヤクザ者という役柄であり、現状を受け入れているトムハとは対照的に、いつか目にもの見せてやるのだという野心を捨てきれていません。本作のトラブルの元凶は彼なのですが、栄光を失った現状に安住したくないという心理が観客にも伝わる形となっているために、彼に対して悪印象は抱きませんでした。この辺りは、ハマり役だったガンドルフィーニの魅力によるところが大きかったと思います。