7.《ネタバレ》 「会社のロゴ、どーん」だの、「黒から始まる映画は傑作」だのと、映画のキャラに関係しないはずの本編の外郭部分へバットマンがツッコミを入れまくるという序盤から遊び心の連続。前作『レゴ・ザ・ムービー』同様、権利関係にいくら金使ったんだと気になるほどのキャラクターの洪水に(バットマンを打倒するためにサウロンとヴォルデモートとエージェントスミスとキングコングとグレムリンがゴッサムシティに攻め込んできます)、スピーディかつ思考を凝らした見せ場の連続と、メタ的な遊びと王道の娯楽が混ざり合ったハイレベルな作品となっています。
また、本作で特筆すべきはバットマンについての真剣な考察がなされている点であり、かつて両親を亡くした強烈なトラウマから、そもそも人と関わらなければ別離の苦しみを味わうこともないという回避行動を無意識のうちにとるようになり、さらにはマスクの影に隠れる内に、もはや他人を求めているという自覚すら失った悲しいモンスターとして描かれています。その異常性は明らかな狂人であるジョーカーをも上回るレベルであり(ジョーカーは己の感情をある程度把握できている)、バットマンが抱える精神疾患がかなり丁寧に扱われています。ティム・バートン版や『ダークナイト』でもバットマンという非現実の存在に現実味を与えるべくその心理への考察はある程度なされていましたが、バットマンの心の闇をテーマに丸々一本映画を撮ったのは本作が初ではないでしょうか。前述した直感的に楽しい部分だけでなく、こうしたじっくり考えさせる部分もあって、かつ両者のバランスの取り方も絶妙なものであり、アメコミ映画としては理想的な完成度となっています。
うちの子供達も本作を楽しんでいましたが、この子達が大人になって本作を見返せば、この映画はこれほど深いことを語っていたのかとまた新たな驚きがあるはずです。そう考えると本作はめちゃくちゃに賞味期限の長い映画で、好きになれば一生付き合えるほどの情報量を持っています。レゴを題材としたファミリー向け映画であっても子供だましの作品にはせず、一切手を抜かずにこれほどのこだわりを持って作りあげたクリエイター達の志の高さも含めて、本作は愛せる作品になっています。
最後に、公開時には署名運動まで起こった芸人による吹き替え問題ですが、小島よしおは予想外に上手で、意外なことに作品の雰囲気を壊していません。自分のギャグをちょいちょい挟んでくる点はちょっとめんどくさかったし(当人の判断ではなく配給会社の指示に従っただけなのでしょうが)、吹き替え版の想定顧客と考えられる子供達には古すぎて伝わらないんじゃないかと心配になったりもしましたが、こちらも作品の品質を毀損するほどのノイズにはなっていません。最近では配給会社も慎重に人選するようになったのか、かつてのように作品全体を崩壊させるレベルのダメ吹き替えはなくなってきているように感じます。