5.《ネタバレ》 アメリカ風に饒舌な弁論で押すタイプの法廷劇とは違いますけど、論旨を積み上げてゆく英国式もまた見ごたえがありました。国が違えば裁判制度もずいぶん違うのですねえ。英国の裁判システムに驚いたのは被告側に立証責任があるということ。それに、本ケースは原告であるホロコースト否定派の名誉棄損訴訟で、著作の解釈のあり方を問うもの。これがまず難しい。訴えられた側のデボラもその辺を混同している節があり、「ホロコーストの有無」にこだわり生存者を証人として呼び情に訴えたいと主張するのですよね。
デボラの強気一点張りはいかにもアメリカンのイメージ。裁判長への一礼も「アメリカ人だから」と拒否しますし。
彼女の激情をいさめつつ、法廷論争の戦術がぶれない英国人弁護士らの理性的な判断はさすがです。
クライマックスらしき大盛り上がりの無い本作において唯一驚かされる場面は裁判長の放った一言。この一瞬、何が起きたのかデボラも私も共に困惑。さすがに弁護士らは提起された意見に考え込んでましたが。
裁判長「原告は心底からホロコーストの無かったことを信じているのではないか?」即ちアーヴィングが個人の信条に基づいて既出の歴史解釈を否定したとしても、それを嘘つきと呼ぶことはできないのではないか?
デボラ側が勝つことに疑いを抱かなかった私(と多分大多数の人)がうわあなるほどなあ、と唸る場面でありました。
果たして裁判の結果はいかに。世間の注目を集めることに成功し意気揚々のアーヴィングと、それを見て喧嘩疲れな表情のデボラ。まあこれが今我々の生きている社会なのですね。