11.《ネタバレ》 「あの頃に戻りたい」。
もう時は戻らないのに。
消えることのない後悔の中、数日前でも、数週間前でも、数年前でも同じことを言っているのだろう。
初恋の娘がくれたハッカ飴と決まったレールを走り続ける列車をキーワードに、
自殺するまでの男の20年を、アルバムを最後から捲るように遡っていく。
彼の人生には初恋の女性の幻影を常に追い求めていたように感じる。
だったら、除隊後に彼女への想いを打ち明け、成就すべきなのに。
もし、罪のない女子高生を誤って撃たなかったら…
「その手で幸せにする権利は自分にはあるのか?」と己を偽り、彼女を遠ざけ、
それでも空疎さを埋めるために他の女と寝ても、金と名誉を追い求めても一向に満たされなかった。
最終章(20年前)の幸福な時間が冒頭(現代)の悲壮さをより際立たせる。
兵役時、踏みつけにされたハッカ飴が、
当時の軍事国家によって矯正された優しい男の人格とリンクする。
後の『オアシス』で知的障害者を演じたソル・ギョングの振れ幅の大きい演技力の高さに感嘆する。
ハッピーでもバッドでもない独特の余韻に、イ・チャンドンの他の作品をもっと見てみたくなった。