9.《ネタバレ》 チャン・イーモウ監督の「菊豆/チュイトウ」のストーリーは、徹底的に悲惨です。
今までにも何本か、気が滅入るくらいの悲惨なストーリーの映画を観てきましたが、この映画はそんな中でも間違いなく、その悲惨ベスト5に入ります。
菊豆という若くて美しい人妻が、強欲で意地悪で不能で、年上の夫に苦しめられ、他の男性に愛されることで苦しさから逃れようとする物語です。
そこまでやるかというくらい、残酷で不幸で理不尽でやりきれないストーリーなのですが、とても美しい映像になっているのが特徴です。
原作の舞台は農村なのだそうですが、映画では染物屋になっています。
黄色や青や赤の長い反物が翻るシーンが数多く出てきて、実に印象的です。
これらの色鮮やかな布は、映画の中で効果的な大道具であると同時に、粋な小道具にもなっています。
残酷なのに、限りなく美しい映画というのはよくあるものです。
例えば、ジャンルは違いますが、「コックと泥棒、その妻と愛人」や「サスペリア」も同様でした。
やはり「赤」が美しい映画でしたから、「赤」というのはひとつの象徴なのかもしれません。
この「赤」から連想されるものは「血」とか「情熱」です。
菊豆の天青に対する想いは、年月が経っても全く薄れることなく燃えたぎったままでしたし、まるで"血の池"のような赤い染料のプールの中で溺れ死んでいく夫、ラストシーンの火事の炎など、到るところに「赤」のイメージがあり、まさにこの映画は「赤の映画」だなと思わせられました。
これでもか、これでもかというくらいの悲惨な終焉なのですが、後味が悪くないというのは驚きでした。
これはひとえに、チャン・イーモウ監督の演出の手腕だと思います。