7.小津映画におびただしい頻度で出演する笠智衆が唯一主演として位置づけられているのが本作品。撮影中に日米が開戦するという微妙な時期であったこともあるのだろう、政府の目も無視できなかった時代だからこそこういう話の筋にならざるを得なかったのかもしれない。同じ戦時中の映画として最近鑑賞したものの中に木下惠介監督の「陸軍」(1944) というのがあったが、こちらにも笠智衆が出演しているのが印象的。当時はみている側も、撮る側も、そして制作費を出す側も誰もが「日本の父」として彼にイメージを重ねていたのだろう。さぞかし責任重大な任務だったに違いない。
大きくなった息子を演じるのは佐野周二。もう何本ぐらい彼の出演作を観たことになるのだろうとざっと数えてみると6~7本になるらしい、最近はその彼の実の息子、関口宏の顔よりも彼の顔の印象の方がすっかり強くなった(笑) 彼の印象が急に強くなったのは木下作品の「お嬢さん乾杯!」(1949) での三枚目的演技であったが、本作は若干物静かな優等生息子を粛々と演じている。ある意味少し異質な役どころに感じる。
なんという釣り方なのだろうか、二人が川辺で同じリズムで竿を操るシーンが強く心に焼き付いている。「浮草物語」でも同じく父と息子の情景として繰り返し現れたためなおさらのことだ。小津はあの適度な距離感と反復動作をなにゆえあの間尺で撮りたかったのか、訊けるものなら訊いてみたい。
なによりも驚くのは彼ら二人が実年齢8歳の歳の差で親子を見事に演じきっていたこと。そして終盤では水戸光子に再会できてさらに満たされた。