3.この時代この場所においてのユダヤ人は人間として扱われなかった。そのことを冒頭のユダヤ人を判断するための下劣な身体測定シーンで強調する。そして人間扱いされないこと以上に怖いのが、そのことが普通のことであるという社会の風潮である。それがユダヤ人をこき下ろす舞台ショーでの観客の笑いをもって強烈に表現されている。そんな世界で差別され虐待され殺されてゆく立場に突然立たされる恐怖が描かれる。主人公は同姓同名のユダヤ人の登場によってその恐怖を味わうことになる。と同時に同姓同名のユダヤ人に興味を抱き、自己の存在理由への疑問も相まって変身願望にも似た執着を見せてゆく。そのときのアラン・ドロンの異常な表情が印象的。話が進むにしたがって主人公がユダヤ人に同化してゆくのだが、そうなってしかるべき状況や伏線が溢れかえっている。登場人物から部屋の装飾、光の明暗に至るまで伏線としての細やかな配慮がされている。話は暗いし進まないしわかりにくいかもしれないけど、何度か見てこの細やかな演出に驚愕してほしい作品。