1.国産初の本格的トーキー映画として知られる映画で、冒頭のシーンなど見ていると、映像とセリフがうまくシンクロしていないように感じられ、かなり試行錯誤の中で作られた映画だということが分かる。初トーキーゆえか、赤ちゃんの泣き声、猫やネズミの鳴き声、そして隣の家から聞こえてくるジャズバンドの演奏などとにかく音を過剰なまでに意識した映画になっているが、ストーリー自体はほのぼのとした雰囲気の小品で、終始ニコニコしながら見ることができた。主人公の作家(渡辺篤)が周りの騒音が原因で仕事にならないという展開はまさにトーキーならではだし、奥さん(田中絹代)とのやりとりも楽しい。主人公が奥さんを「絹代」と呼ぶに至っては思わず大笑いしてしまった。この時代の田中絹代は小津安二郎監督のサイレント映画で何本か見ているが、後年の出演作で見せる味のある名演技とは違い、まさにもうアイドルという感じしかなく、素直に可愛らしいと思えるし、声も実にキュートである。映画自体の話に戻ると、この20年後に作られる国産初のカラー映画である「カルメン故郷に帰る」と同様に歴史的価値のある映画として語られる映画で、二本とも内容的にそれ以上のものはないかもしれないが、二本とも肩の力を抜いて気楽に見られる喜劇として評価できる映画だと思う。でも個人的にはどちらかと言えば本作のほうが「カルメン故郷に帰る」よりも単純に笑いに徹していて好きである。