1.当時はまだ痴呆症と呼ばれていた認知症をテーマにした吉田喜重監督による社会派ドラマ。新藤兼人監督が同じテーマで手がけた「午後の遺言状」は、重い中にも時折ユーモラスなシーンもあったと記憶しているが、この映画は最初から最後までひたすら重く、身内の一人が認知症になってしまったことで起こる家族の問題がとてもリアルに描かれていて、見ていてとてもつらくなってくる映画だった。病院で10円玉を欲しがり、つながるはずのない電話をかける認知症の患者である老婆の姿は見ていて痛々しいく、ボケてしまった妻(村瀬幸子)を介護する夫(三國連太郎)がトイレの鏡に向かって挨拶をするシーンなど認知症の症状に関してもものすごくリアルである。村瀬幸子が「早く死なせておくれよー。」と叫ぶ姿も切なかったし、在宅介護となったそんな義母を介護する嫁(佐藤オリエ)にも感情移入できる部分があるので、もう見ていて本当につらいとしか言いようが無い。この映画は約四半世紀前に作られたものだが、今でもこういう状況はありえるのではないかと思わせてしまうところが怖かった。ラストは本当になんの救いもなく、そうするしか道はなかったのかと見ていて鬱な気分になってしまった。人にすすめようとは全く思わないし、好きな映画でもない。でも、社会派映画としてのメッセージ性は非常に強く、問題作であることは確かである。