5.司馬遼太郎の「人斬り以蔵」に基づくとは言っても、あくまで「参考文献」としてクレジットされており、確かに基となっている短編小説に対して、エピソードが大きく膨らまされております。岡田以蔵と田中新兵衛との関係など、なかなか巧みな描かれ方でして、この田中新兵衛を三島由紀夫が演じているというのが、見てて多少疲れるところではあるのですが(改めて、プロの役者って凄いんだなあ、と思っちゃう)、演技のぎこちなさが、ちょっとした不気味さにもつながっていて、同じ「人斬り著名人」でありながら、以蔵を演じる勝新の人間臭さと好対照になっております。さらに、切腹を演じた本人が後に実生活でも切腹しちゃったってのが、何だか因縁めいてもいるのですが。
その人間臭い以蔵も、冒頭の吉田東洋殺害場面では相当に変態的。土砂降りの雨音が執拗に続く中、これまた執拗に人が殺されていく場面が描かれて、それを見ながら以蔵の顔は恍惚としていく。アブナイアブナイ。
という訳で、刀を振り回すシーン、人を斬るシーン、ノリノリでイッちゃってて、迫力あります。一方、粗暴なれどあくまで人間臭い以蔵に対し、幕末という時代の方がさらにイッちゃってて、結局はその運命に振り回される。坂本竜馬が石原裕次郎で、いかにも都会人っぽいのがどうなのよ、という気もする一方で、この狂ったような時代における一服の清涼剤のような存在にもなってたりします。
走る勝新、斬る勝新、彼の躍動感が、作品の魅力です。