1.《ネタバレ》 アネット・ベニングにはイタズラが似合う。イジワルですらイタズラに見えてしまう。派手な衣裳をピラピラさせながら登場するときの、してやったりとほくそ笑んでいるようないたずらっ子ぶり、いじわるの陰湿さはなく、晴れ晴れとさえしている。「三十女の役の次は母親役、そして祖母役」とボヤいていた鬱屈を跳ね飛ばしているから。中年女が若者と恋に落ちる芝居と聞けば、ああファルスか、と返される常識を吹き飛ばしているから。こういう役こそ役者冥利に尽きるというものだろう。とても楽しそうに演じているのが、こちらも見てて気持ちいい。この舞台女優には演出家の亡霊(マイケル・ガンボン)がつきまとっていて、日常生活でのふるまいになにかと注文をつけているのがおかしい。女優とは日常の中に演技が入ってきてしまう存在ということ。舞台を下りた自分の人生の中にも、芝居のせりふが無意識のうちに入り込んできてしまう。気に入ったせりふは同じ状況になると、より練られて繰り返される。ラストの舞台で、それら日常の身辺でざわめいていた言葉たちが一気に逆流し、ステージにかけ上がってきて輝き出す。圧巻である。