1.《ネタバレ》 本来ならば190分の作品が無残にも半分以上切られてしまっているのだから、
現在残されているバージョンで物語を追おうとすることには無理がある。
特に前半部の欠損が多いのか、いきなり場面が結婚後に飛んでいたりと展開の
慌ただしい事この上なく、混乱すら来たしてしまう程だが、それは少なくともルノワールの非ではない。
逆に物語を放棄する分、それぞれのルノワール的画面の映画性をより良く味わえるだろう。
確かにヴァランティーヌ・テシエは薹が立った印象でヒロインとしての魅力には欠けるのだが、
終盤の病床シーンの芝居などは圧巻だ。
家禽の行き交う田園風景の風情や、並木道を進む馬車の縦移動の緩やかな運動感もいい。
屋内シーンでもぬかりなく窓を解放しドアを開閉し、外の世界の広がりを豊かに画面に取り入れる。
パンフォーカスによって二間の部屋の奥、その又先にある屋外空間の事物・空気まで意識を伸ばしている。
『市民ケーン』(1941)に先駆ける、この意欲的な世界把握。傑出と云っていいだろう。