5.《ネタバレ》 これは恐ろしい映画です。
何せ作中で行われている「独裁を疑似体験する為の授業内容」が、日本の義務教育に(それも多感な時期の子供が集まる中学校での風景に)瓜二つなんですからね。
・全員が同じ制服を着る。
・発言する時は手を上げて、起立してから話す。
他にも色々と当てはめる事は出来そうですが、この二つに関しては特に
「えっ? それって特別な事なの?」
と感じてしまう日本人が多いのではないでしょうか。
ナチスの記憶が残るドイツだけではなく、日本の教育を受けてきた者が観賞しても、色々と考えさせられるものがあると思います。
更に興味深いのは「独裁制度の利点」と呼べるような部分を、前半にてキチっと描いている事。
同じように「支配される」立場となった時、生徒達の間で連帯感が芽生え、差別意識も弱いものイジメも無くなっていく流れなどは、目を見張るものがありました。
また「スポーツ」「演劇」などの要素も取り入れられており、集団が一つの目的に向かって行動する際に、その意思を統一する事は決して悪い事ばかりではない、と教えてくれる事にも感心。
こういった内容の場合、どうしても堅苦しい作りになってしまいそうなのですが、全編に亘って爽快な曲調のロックが配されており、若き主人公達の青春群像劇としても観賞する事が出来るのだから、非常にバランスの優れた作品なのだと思います。
生徒達にリーダーとして崇められていく内に、自分を見失っていく体育教師が
「毎週月曜日には安定剤が必要だ。学校が怖いからな」
と心情を吐露する場面なども、胸に迫るものがありました。
一方で、その「青春」部分が劇的に作用し過ぎたかのような、終盤における生徒達の「死」に関しては、蛇足であるように感じてしまい、非常に残念。
自分としては教師が「これが独裁だ!」と宣告した場面で、スパッと終わってくれた方が好みでしたね。
その方が、歴史を学び過ちを繰り返したりはしない、人間の理性の勝利というハッピーエンドに感じられたと思います。
折角あれだけ丁寧に「独裁」の恐怖を描いてくれたのに、銃を持ち出されて殺人やら自殺やら行われてしまったのでは
「少年が簡単に銃を入手出来る、その事の方が独裁云々よりも重大な問題なのでは?」
と思えてしまい、どうも軸がブレているように感じてしまったのです。
それが作り手の狙いであったという可能性もあるかも知れませんが、自分の場合、純粋に思考実験を通して「独裁制度は間違っている」と証明してもらえただけで満足だったし、その後に「……何故なら、こうやって人が死んでしまうからだ」という説明を付け足すかのような行いは、無粋ではないかと思えてなりません。
ただ、そんな風に不満も覚える一方で、この展開ならではのラストシーンの良さも、確かに感じ取る事は出来たかと。
生徒を死に至らしめた「独裁者」として逮捕される教師の視点と、観客の視点とが重なり合う演出は、実にお見事。
「独裁制を支持してしまう恐怖」だけでなく「自らが独裁者となってしまう恐怖」さえをも、はっきりと追体験させてくれたところで、綺麗に映画が終わるという形なのですよね。
幽霊や殺人鬼が登場するホラー映画などよりも、こういった代物の方が「本当に怖い映画」と言えるのじゃないかな、と改めて実感させられました。