1.《ネタバレ》 ジョルジュ・メリエス、彼こそが世界初の映画作家と呼ばれる資格があるんじゃないでしょうか。映画を撮っていたのはわずか16年間だったそうですが、そんな偉大だけど不遇だった彼の人生をたどったドキュメンタリーです。とはいえ、実質半分は『月世界旅行』彩色版の修復の記録でしたけどね。 『月世界旅行』前史といえる彼の初期作品を多々観ることができたのは感涙ものです。なかでも『一人オーケストラ』はやっぱ傑作、こりゃ現代でも通じるセンスじゃないでしょうか。メリエスが建てた温室みたいなガラス張り撮影所を復元して、『月世界旅行』の撮影風景を再現しているのも愉しいところです。コメンタリーとしてトム・ハンクスが出演していますが、この再現シークエンスでメリエスを演じているのが、ノン・クレジットでどこにも証拠はないけどどうもトム・ハンクスみたいな気がします、声もそっくりなんですよ。メリエスは映画製作を止めたときに自作700本のネガフィルムを燃やしてしまったそうですが、コメントにもありましたがまさに「形を変えた自殺」というのが相応しく、時代に取り残された彼の絶望感がひしひしと伝わってきます。発見されて修復に使われた『月世界旅行』の彩色版のフィルムもほとんど固まった状態でしたから、燃やされず現在まで残ったしても痛みは相当ひどいことになっていただろうと思います。 この映画ではほとんど腐ってるんじゃないかと思うような状態になった他作品のフィルムも映りましたが、映画フィルムの保存の困難さを改めて教えられました。日本なんか戦災もあって戦前の映画はかなりの数が永久に失われてしまったそうで、これは悲しいことです。フィルムがどんなに傷ついていても、そもそも存在しなければデジタル修復なんてできませんからねえ。