4.《ネタバレ》 外桜田門の変に端を発した、十三年間仇を追い続け、追っ手を待ち続けた男たちの物語。
追っ手は井伊家幕府大老掃部頭の元近習志村金吾、仇は水戸家の脱藩浪士佐橋十兵衛。いずれも死ぬ時宜を失ない、仇を追いそして追われる身となる。
この作品は武士の矜持と人生の再生が大きなテーマであるように感じた。主人公の金吾がいかにして仇を許し人生の再生を試みるに至ったかの心理描写が弱いのが残念だが、ラスト間近で金吾が仇である十兵衛に邂逅し、ともにこの十三年間死に場所を求めていたことを知り、心の深い部分で共感しあえる何か、二人にしか分からないもの、が人生をやり直そうと決断するに至る大きな要因であったようには感じた。
個人的にはこの終わり方は好きだ。ラストに金吾が妻を迎えに行き一緒に帰るのもよかったが、十兵衛が(十兵衛に思いをよせる)マサのもとへ行きマサの思いに応える意思表示をするのがほのぼのしていて、十兵衛が人生をやり直そうとする気持ちが伝わってきて後味がよかった。
なお、幕末の大老井伊掃部頭直弼は毀誉褒貶相半ばする。井伊側の視点でみると「花の生涯」となり、水戸側の視点でみると安政の大獄の張本人「赤鬼」となる。