1.《ネタバレ》 (思いっきりネタバレです)
オープンカーが田舎道を走っている。バックに流れるのはフレンチ・ポップス調のショパン。この70年代の匂いがプンプンするオープニングに、昭和な自分はガツンとやられた(笑)。
ハンドル片手に走りながら、旦那(ブラピ)は煙草をくわえシガーソケットで火をつけようとするが、点かない。そこでダッシュボードに手を伸ばしてガッと開けると乱暴にひっかき回してライターを探す。この時、妻(アンジー)の方をチラッと見る。黙って見てないで探せよ・・・っていうイラつきオーラ全開。シラッと見返す妻。この短いシークエンスで、この夫婦の不仲が分かる。
ホテルに着いてからも、ずっとヒリヒリムードの2人。妻が外したサングラスをポンとテーブルに置いて、レンズが下向きになってるのが旦那には耐えられないらしく。レンズが傷つくからか?いちいち置きなおす。これ3回くらいやってたな。
こんな“倦怠期ど真ん中”の2人が、南仏のリゾートホテルで過ごすヴァカンス。スランプで酒浸りの作家と、常に不機嫌な妻。けっして面白いオハナシではない。でも、夫婦がいかに愛の炎を消さずに共に生きていけるか?っていうのはけっこう普遍的なテーマ。身につまされます(笑)。
で、隣の部屋に新婚旅行の若夫婦がやってきた事から物語が動き出す。壁に覗き穴を見つけた妻が、つい好奇心にかられ覗き見する。やがて旦那もその穴に気づき、夫婦2人で「秘密」を共有することで不思議な連帯感が生まれ、またトーゼン刺激にもなって(苦笑)夫婦の関係が徐々に修復されていく。
海辺のホテルではいつも波の音が聞こえ、寄せては返す波の運動は永遠に続く日常を思わされる。「海辺にて」というオリジナル・タイトルには、そんな「日常を繰り返す」夫婦の歩み、という意味もあるかもしれない。
旦那がいつも飲みに行くパブレストランの親父が素敵だ。父親のようにブラピの話し相手になり、「愛してやれよ」と助言を与える。この親父さんが亡き妻の写真を愛おしそうに眺める姿に、旦那も胸を衝かれ、妻を愛そうとする。朝の光の中にいる美しい妻の立ち姿をベッドの中から眺めている時のブラピは、少しだけ幸せそうに見えた。そう、この旦那はいつも妻を見ている。一方的に。悲しそうに。
最初は旦那のほうが冷めてしまったのかと思っていたが、心を閉ざしていたのは妻だった。そこには理由があるのだけど、どんな理由があるにせよ、夫婦が2人で一緒にやっていくと決めたのなら、前を向いて助け合って生きていったほうがいい。憎みあい拒絶し続けるのなら一緒にいる意味はない。旦那が言う「クソッタレな生き方はやめよう」って、そういう事だと思う。
最初のほうに書いたサングラスの隠喩は、もしかしたら、傷つきやすい妻を守る意味だったのかもしれない。傷がつかないようにそっと置き直す、あれは旦那の愛だったのかも。
いろんな意味で、隣の若夫婦は気の毒というか、とんだ災難だったねって感じなんだけど、一応、まるっと収まって最後はオープニングと同じオープンカーの2人。またもやショパンのプレリュード4番が切なく響き、寄せては返す波のごとく・・・繰り返し。この曲、メロディーはほとんど同じ音型の繰り返しで、伴奏だけ半音ずつ変わっていく。これが少しずつ変化していった2人のよう。カタストロフのようなクライマックスを奏でるとまた元のテーマに戻って・・・。メランコリックな旋律がこの物語にピッタリ!
で、夫婦の姿はオープニングとは明らかに違う。お互いにチラチラっと顔を見合い、アンジーがブラピの腕を優しくなで、妻が夫を見るカットで終わる。
なかなか味わいのあるドラマでした。