1.《ネタバレ》 ニューヨークのとある交差点である日、わき見運転の路線バスによって一人の妊婦が死亡する事故が起こる。何処にでもあるような平凡な交通事故。幸いお腹の女の子だけは無事に生まれたものの、遺された夫は自暴自棄に陥り、酒に溺れた挙句自らその命を絶つのだった。祖父に引き取られた女の子は孤独を感じながらも無事に成長し、やがて歌手を夢見てニューヨークの小さなライブステージへと立つことに――。一方、スペインの片田舎では貧しいながらも妻とともに平穏に生きていたある農夫のもとに一人の男の子が誕生する。厳しい父の元、すくすくと成長した男の子はある日、家族旅行でニューヨークへとやってくるのだった――。全く接点のなかったそんな二組の夫婦とその子供たち、だが運命の悪戯か、小さな交通事故によって彼らの人生は大きく変わってしまう……。ボブ・ディランの名曲に乗せて、そんな平凡に生きていた人々に訪れた奇跡をドラマティックに描いたヒューマン・ドラマ。全く予備知識のないまま、アントニオ・バンデラスやオスカー・アイザック、アネット・ベニングという実力派の役者陣共演に惹かれ、今回鑑賞してみました。冒頭から、主人公カップルを襲う悲劇の連続――夫の目の前で妊娠中の妻が事故死し、しかもその妻は幼いころに両親を亡くし、その後引き取ってくれた叔父から性的虐待を受けていた――に気分が重たくなります。挙句、遺された夫がピストル自殺するんですから、どれだけ悲劇なんだとウンザリしそうになりますが、本作は語り口が非常にポップなのでそこまで暗くならずに観られるのですから、これぞ映画のマジックというものですね。物語はその後、遺された娘へとクローズアップしながらも、何故かスペインの片田舎へと舞台を移し、そこで全く無関係のある農夫の家族を延々追ってゆくことに。いったいどういうことだろうと思ったら、後半で納得。なるほど全てはあの交通事故へと繋がってゆくのですね。人間万事塞翁が馬ではありませんが、人と人が出会い時に悲劇を招きながらも、それでも恋に落ちカップルとなって一緒に生きてゆくことの奇跡が非常にナチュラルに描かれていて、観ているうちにじわじわと心が暖かくなっている自分が居ました。そう、人生は悲劇の連続かも知れないけれど、それでもいつかはきっと幸せが訪れる。そう思わせてくれる佳品と言っていいでしょう。