1.《ネタバレ》 一見した限りでは所謂不条理系スリラーと言うかホラーであって、スクリーン上に展開されるヒロインが遭遇する出来事は全て事実なのかなとも思えるのですが、ヒロインが出会う男たちが皆同じ顔をしていて、にも関わらず彼女は(おそらく)それに気付いてはいないという状況を考えれば、男性に対する彼女の激しい嫌悪感(必ずしも夫に起因するものではないでしょう)が夫を除く全ての男性を「男なんて皆同じ」という認識に立たせていることを表現しているのかなとも思えます。
とすれば、元々なのか離婚問題によるものなのかは分からないまでも、全ては精神を病んでいるヒロインが感じ取っている事象、つまりは彼女の精神世界、端的に言えば妄想なのかも知れません。同じ顔の男たちを始めとして、トンネル、裸の男、タンポポの種、教会に鎮座している生贄台?等々、全てはヒロインの脳内においてシンボライズされているもの。そして作り手にしてみれば、それらをメタファーとして配置することで観客にテーマを伝えているのかも知れません。そう考えると結構スッキリします。ただし、言うまでもなく単純に個人レベルの即物的な性の問題ではなく、より歴史的であったり文化的であったりする性の問題がテーマなのでしょうけれど。
疑問は残ります。何故夫だけは違う顔、違う人種なのか?ラストシーンで来訪する親友は何故妊婦なのか?出産を繰り返す男たちの有する異質感と、訪れた妊婦が有している本質感の対比が意味するものは何なのか?そしてヒロインの晴れやかな笑顔は?どの疑問についても、答えが見つけられそうでいて容易には見つかりそうもない。難解です。難解モノは好物ですので7点献上します。もう一度見たら、良くも悪くもおそらく評価は変わると思いますが。
それにしてもロニー・キニアさんの怪演は見事ですね。微妙に嵌め込み感のあるモンローマスクの少年?も含め、とんでもなく自然な演技(メイクのおかげもありますが)で、始めは同一人物と気付かずに観ていました。でも、そのモロに同じ顔ではないところがミソなのかも知れません。もっとも、まるっきり同じ顔だったらコメディになっちゃうかも。