1.《ネタバレ》 ネタバレ厳禁映画です。未見の方はご注意ください。
瞬間移動実験で起きた予期せぬエラー。「どうして起きたか」の説明(光の反射理論)は実はよく分かりませんが、「何が起きたか」はすぐに理解できました。というより多くの観客が真相を予想できたのでは。それくらいこのSFジャンルでは使い古されたネタでした。主人公の実験記録を盗んでいった人物の描き方は明らかに「見せ過ぎ」であり「そりゃそうだろう」としか思えません。しかしネタに新鮮味がないから不可ではありません。見せ方、そしてテーマ次第。監督の手腕が問われる「定番」SFだったと思います。
ワープ実験により記憶障害を負った主人公。彼女が苦難の末真相に辿りつくまでが「見どころ」であります。記憶に質量はあるのか。記憶は電気信号か。では魂はどう定義される?科学とも哲学とも言えるアプローチは興味深く、前述したように理論は理解できずとも真相は十分腑に落ちました。そして彼女の立場に我が身を重ね絶望する訳です。あの解決方法しかないのは理解しますが、これを「当たり前」と捉えるなら劇中非難されていた「動物実験」と何が違うのかという話。「動物実験は殺人と同じ」という活動家のトンデモ理論が俄然正当性を帯びてきます。科学技術の進歩に犠牲が付き物だとしても、どこまでが許容範囲かということ。動物愛護活動家の主張も、科学者の態度も、どちらも私には受け入れ難い。しかし瞬間移動が本当に実用化されたならどうでしょうか。事故を理由に自動車を否定する人が居ないように、瞬間移動技術がもたらす莫大な恩恵の前には相当な犠牲が社会的に許容されるでしょう。おそらくこの価値観の変化こそがラストカットの「繭」で暗示される人間社会の「メタモルフォーゼ」。それは人が魂を捨て去る世界と言えるかもしれません。
念のため最後に1点確認を。主人公と母親の通話シーン。まるで引っ越し前後のような何もない白い部屋に母親がひとり。違和感と共に得も言われぬ恐怖を感じさせました。これは「背景が無い=主人公の記憶が無い」という意味で捉えてよろしいのですよね。もしそうでないなら、パラレルワールドとかマルチバースの可能性も考えなくてはいけないので。もうちょっと深掘りして解釈を試みたい気もしますが・・・。もし本作が面白いと感じられたなら『プライマー』(2004)の鑑賞をお勧めします。ただし考察に要する時間は本作の比ではない超難解映画ですので時間に余裕のある時にご鑑賞くださいませ。