4.《ネタバレ》 大人だからこそ、若さがあるからこそ、大きな困難を乗り越えられると思っていた。 だが、いくら大金を得られてもヒエラルキーからは逃れられない。 そして強大な権力によってどうしようもない厳しい現実に打ちのめされる。
NYのストリッパーで時折性的なサービスも請け負っていたアノーラが求めていたのはお金だったのか、 それとも自分自身を受け入れてくれる代わりの利かない愛情だったのか。 最初で最後かもしれないチャンスに彼女は必死にしがみつく、必死に抵抗する。 大富豪の部下たちの脅しには汚い言葉で打ち負かし暴れまくる。 決して折れまいと毅然とした態度で立ち向かうマイキー・マディソンのパフォーマンスに圧倒された。 ポールダンスからロシア語まで完璧にこなし、アノーラというキャラクターに現実味を与える。
本作では愚かな人間しか登場しない。 勢いでアノーラと結婚した大富豪の息子のイヴァンですら、彼女を置いて逃走して、NYのクラブで泥酔しまくるし、 自分という核がなく流されるがままの幼稚で無責任な青年。 両親を見ても「この親にして、この子あり」な横柄さでロシアという国家そのもの。 その中で寡黙な用心棒のイゴールだけはアノーラに対して距離を置きながらも、彼女を気遣い、見守っていた。 婚約解消のシーンで部外者ながらイヴァンを謝罪させるべきだと進言したのも彼だった。 ある意味、彼だけはファンタジーの住人だ。 当たり役を好演したユーリー・ボリソフに肩入れしたくなる。
夢から醒めたように現実に叩き戻されるラスト。 朝から白い雪が降り続く灰色の世界に、車内にはワイパー音だけが響いている。 自分に良くしてくれたイゴールへの厚意を性行為でしか示せない悲しさに今まで張り詰めていた糸が切れ、 アノーラは"一人の女の子"として泣き崩れる。 イゴールもやんわり拒否しながらも無言で、 「もうこれ以上、自分を傷つけなくていいんだ、頑張ったよ」と彼女を慰めているように見えた。
アノーラのこれからの物語はどうなるのだろうか? きっと、二人は恋人同士になれなくても、お互いに信頼し合える存在として支え合いながら強く生きていくと思う。 なんたってアノーラはロシア語で"光"を意味するのだから。 【Cinecdocke】さん [映画館(字幕)] 7点(2025-04-19 20:56:25) 《更新》 |
3.《ネタバレ》 確かに、非常に面白く観れたコトには間違いはなかったのです、が、思ってたのとは少し違った…とゆーのもまた確かで、観終わってみるとかなり純然たるコメディだったって結論、なんすよねコレ…(且つ、今作の場合でその頭に「ロマンティック」って付けちゃうのは、それもそれでまた個人的な感覚からはちょっとズレて来るなと言いますか…)
また、基本、マトモな人間がほぼ出て来ないってタイプのコメディでもあり、そのイカレっぷりからすると(寧ろ)主役のアノーラちゃん(+終盤にかけてはイゴール君)の方が結局は真人間に見えて来る…みたいなヤツだとも思うのですね(⇒とは言え、アノーラちゃんだってあ~んなクソガキに=こ~んな典型的なる与太話にまま真剣になっちゃってる辺りには、まだまだ「若さ・青さ」も強く感じ取れるな、とは思うのですケドね)。ソコで、そのアノーラちゃんに付与されて居るある「属性」にフォーカスすると(とゆーかフォーカスせざるを得ない状況からすると)、一般的に「蔑まれる」様な存在の彼女であっても、そうされるべきは(実は)彼女の方ではなくて「世界」=我々の方だったのだ…みたいなのこそが、やや現代にも通じるってテーマなのかとも思えて来ます。が個人的にはそれすらも、在り来り…とゆーか最早ちょっと「古臭い」とすら思っちゃったりもしますかね(⇒それこそこちとら、ロマンポルノやらナンやらでそーいうの散々に観てきてますからね)。監督が、主演のマイキー・マディソンに、役づくりの為に『女囚さそり』の鑑賞を勧めた…と聞いて(少なくとも私は)然も在りなん…と思ったトコロです。
ただ、前半のロシアのバカボンの乱痴気騒ぎ(⇒主人公が、急速に目まぐるしく「夢でも見てる」かの様に異世界に足を踏み入れていく様子)の極上のテンポ好さ、からの、中盤のドタバタ(ドッタバタ)コメディのキレ味、そして、個人的には映画の締め括り方=電池が切れたかの様に静かに(雪の降る中に)終わっていく感じも、また絶妙だったな~とは思ったのですよ(流石に私も観てて疲れちゃってました⇒なのでラス前、アノーラちゃんとイゴール君がまったりしてるトコロなんか凄くホッとして観れてました)。根本的なお話の内容もごくシンプル、且つテーマもやや使い古された様な…作品かとも思うものの、他方、演技・演出には特筆すべき見ドコロが在った…という(コレも)シンプルにテクニカルな映画だったとは思われましたね。やや高めに寄せてこの評価とさせて頂きます。 【Yuki2Invy】さん [映画館(字幕)] 7点(2025-03-16 00:59:12) |
2.《ネタバレ》 ストリップダンサーのエネルギーあふれる官能的なラブコメ。米アカデミー最優秀作品賞受賞作…ということは本年度最も評価された映画。夜のNYで踊るイケイケでヤりたい放題なアタシと、ロシア富豪の御曹司にして絵に描いたようなチャラ男のオイラ。見るからに安っぽい恋愛で、勢いに乗ってケッコンしちまうアタシとオイラ。ロシアの両親が来米すると聴いてビビりまくり尻尾巻いて逃げ出す、小便小僧なオイラ。大邸宅に取り残されたアタシ、怒りのスイッチオン。両親が寄越した大の男3名の刺客相手に暴れまわる、怒鳴り散らす、じゃじゃ馬ではねっっかえりなアタシ。アタシと男3名、世間知らずで臆病なボンボンのオイラを求めて珍道中。四方八方探し回り、捜索後に両親が来米してもちろん離婚成立。やってられねえ。慰めてくれたのは刺客の一人。最後のイッパツもヤり損ねて涙。破天荒でエネルギッシュに「アタシ」を怪演、弱冠25歳のマイキー・マディソンが米アカデミー最優秀主演女優賞、ショーン・ベイカーが最優秀監督賞受賞。良作。 【獅子-平常心】さん [映画館(字幕)] 7点(2025-03-04 21:19:42) |
1.《ネタバレ》 『フロリダ・プロジェクト』や『レッドロケット』のショーン・ベイカー監督が、ついに賞レースの最前線へ! しかもテーマは、ストリッパーとロシア人富豪のバカ息子の恋? うわ、めっちゃ面白そう、っていうか絶対面白い、という諸々のハードル上がりまくった状態で映画館へ。
結論としては、うーん・・・思ったのとは違った。それにいままでのショーン・ベイカー作品と比べるとちょっと飲み込めない部分もある。
「恋愛成就からその後まで」映画といえば『ラ・ラ・ランド』をはじめ珍しいパターンではない。この映画の奥深さは「それって恋愛なの?」という疑問がそこに挟まれていることだ。ストリッパーと客として出会い、前半は基本的に短いセックスシーンと乱痴気騒ぎの連続。そんな「底の浅さ」の頂点に「ラスベガスでの結婚」がある。そんな軽薄極まりない結婚に「シンデレラ・ストーリー」を見出すのが「新しさ」なのか?といろいろ疑問が頭に・・・。そこから、物語は俄然面白くなる。それまでの短いカットでポンポンと進んできたストーリーと比べると、無駄に長いポンコツ三人組との組んずほぐれつの格闘シーン。ここで、とにかく屈しない主人公アノーラ。ここで初めて、アノーラという主人公の核が見えて、物語がクリアになる。
その後のイヴァン捜索のグダグダからラストまでの展開にはハッとする瞬間もあったけれど、とくにロシア人父母が登場してからはモヤモヤが。アノーラを含めて全員クズなんだけど、それが何重にも重なるやりとりがイマイチ心に響いてこない。それはたぶん、あのロシア人一家がわかりやすい悪役で心を許せる要素がほとんどなかったせいだと思う。クズがクズであることの人間的な魅力はやっぱり社会の周縁にあってこそなんだと実感。富豪一家は本当に単なるクズで、いまの世界をかき回している有害なクズたちの姿に重なって、ただただ不愉快だった(今朝あいつとあいつの腰巾着がウクライナ大統領に放った暴言の数々をみちゃったから、なおさら不愉快)。
だから、ラストがあの二人のシーンになったのは必然だし、そこは本当に素晴らしい。雪の風景、音の演出、そしてアノーラの涙。「それって恋愛なの?」という最初に抱いた疑問が、ここで深く突き刺さる。マイキー・マディソンにオスカー主演女優賞とってほしい!と心から思えた幕引きでした。 【ころりさん】さん [映画館(字幕)] 7点(2025-03-01 10:19:46) |