7.《ネタバレ》 戦争によって分断される人間を様々な側面から描いた人間劇。異色なのは滅びゆく貴族同士の絆と悲哀を描いている点。独軍のラウフェンシュタイン大尉と仏軍のボアルデュー大尉の交情は我々の予想を超える。飛行機で撃墜した敵将を食事に招き、捕虜収容所ではお茶に招いたりと厚遇する。最後は脱走しようとする敵将の腹を撃ち抜く。脚を狙うつもりだったと謝罪すると、いいんだよと友人に声をかけるように許して死んでゆく。ボアルデュー大尉は自らを犠牲にして二人の将校の脱走を助けた。「戦争が終われば自分も滅ぶ運命だ」独軍将校は愛育していたゼラニウムを剪って供華とする。最も美しい場面だ。
マレシャルと敵国の未亡人との恋が後半の核となる。女は夫と兄弟三人を戦争で亡くしている。喪中に敵国の逃亡兵を愛せるものか甚だ疑問だが、「家の中で男の人の靴音を聞く幸せがどんなものかわかる?」と訴えられれば納得するしかない。
「国境は人間が引いたもので自然は同じ」「国に帰ってもまた軍人で同じことの繰り返しだ」「戦争なんてこれで終りにしたい」「幻影だ」含蓄のある会話で映画が締めくくられる。国境を憎みながら、国境に救われるところは風刺が利いている。
他に、少年兵を見た老婆が「あんな子供まで」と嘆く場面や、独軍の気のいい監視兵や、脱走した二人が喧嘩別れしてから和睦する場面など印象深い場面がいくつかある。
内容は素晴らしいが、見せ方は未熟だ。冒頭マルシャルの連呼するジョセフィーヌ、偵察機の撃墜場面、三人の捕虜の脱走未遂場面、これらを省略しているので繋がりが悪い。最も盛り上がるべき城塞からの脱走場面でもサスペンスに欠ける。笛を用いての脱走だが、笛はボアルデューが自国から取り寄せたものだ。捕虜なのに自国から荷物が届き、ドイツ軍より良い食事をしているなど理解に苦しむが、それはさておき、笛を取り寄せるなど甘い設定だ。知恵を絞って、そこにあるもので何とか間に合わせてこそ、感情移入できるというもの。祖国からの新聞によりドゥーモン城塞奪回を独軍より早く知るなども有得ないし、テニスラケットを持って捕虜収容所に向かう米兵などの描写も不必要だろう。やはり戦争映画は厳しさがないと締まらない。煙草吸って、酒飲んで、女装して踊って歌ってというのではしっくりこない。戦争や捕虜に対する考え方が日本と違うのを痛感させられた。