10.《ネタバレ》 シリーズ中でも名作の呼び声が高い本作だが、まずプロット自体がいつもと少し違う特徴をもっている。
著名な日本画家を演じる宇野重吉は、マドンナ以外のプレーヤーとしては今回は重要な役どころで登場する。(本作では貴重な親子共演も果たしている)
その演技は聞きしに勝る名演技だった。特に冒頭、飲み屋で無銭飲食をし、寅さんが「とらや」に連れてくる場面では、おばちゃんの言うとおり「ルンペン」にしか見えない立ち振る舞いだったが、故郷である播州・龍野で寅次郎と再会した時には、一流芸術家のオーラを身にまとっている……といった名優の変幻自在の演技ぶりを堪能できる。
この龍野で出会う芸者・ぼたんが今回のマドンナなのだが、通常は寅さんが一方的に意識をして舞い上がってしまうところ、今回は恋愛感情を感じさせるシーンは特段見られず、いつもの「困っている人を放っておけない」寅さんの気性が炸裂して、ラストの展開まで行ってしまうし、「お前と所帯を持とうと思って来たんだよ」と言いつつ、二人が今後どうなってしまうのかは(本作だけを観れば)オブラートに包んで大団円となっている。
つまり、シリーズ中の1作ではあるものの、本作については「単体の作品」として起承転結が成立しており、実力派俳優たちの名演と共に、人情味あふれる爽やかなラストで終わるため、評価が高いのだと思われる。
確かに、寅さんが本当に所帯を持つなら、ぼたんのような天真爛漫な女性か、リリーのような気が強い女性が相性がよいのでは……と思い始めた作品。